二人のガスコン   佐藤賢一

作者は1968年生まれ、東北大学大学院でヨーロッパ中世文学を学んだ。フランス史に題材をとった作品が多く私も「王妃の離婚」「傭兵ピエール」などをすでに読んでいる。

子どものころ、デユマの「三銃士」を講談社の少年少女文庫か何かで読んだ。田舎出のダルタニャンがパリにでて、アトス、ポルトス、アラミスの三銃士と親しくなる。やがて4人はアンヌ女王の名誉を守るため、イギリスはバッキンガム公に与えたダイヤを取り戻しにゆくが、宰相リシュリュー郷の邪魔が入り・・・・。

ところでこのダルタニャンという人物は実在していた。1615年ごろガスコーニュ生まれ。30年前後にパリに上京。国王陛下の銃士となり、46年リシュリューの死後宰相となったマザラン枢機卿の腹心となり、さらに銃士隊長となって73年,対オランダ戦争に出陣、マーストリヒト戦線で戦死した。
対するもう一人のガスコン、シラノは1619年生まれ。哲学者、詩人、音楽家、毒舌の名人、剣客としてムーゾン、アラスの戦場で戦うも名誉の戦傷にて1655年短い生涯を終える。1899年エドモント・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」で、ロクサーヌに熱い恋を語ったあの鼻のシラノである。

二人の出身地ガスコーニュ地方というのはフランス南西部ピレネー山脈からガロンヌ川に及ぶ地方の旧名。現在のオートピレネー、ジュール、ランドなどの諸県で農耕が主体。中心都市はオーシュというところである。ブルボン朝の発祥地でもある。

本書は「三銃士」の続編とも呼べる作品。時は1646年、フランス王はルイ13世の後をうけたルイ14世の御世、ただし国王は8歳。皇太后にあのアンヌ。ダルタニャンは宰相マザラン枢機卿のもとにいる。さらにリュクサンブルグ宮殿に根城を置き、密かに陰謀をめぐらし王位をねらうオルレアン公ガストン。

戦線のダルタニャンがパリに呼び戻され、新宰相マザラン枢機卿から新しい密命を受ける。「落ちぶれ文士シラノと共に、マリー・ドウ・カヴォアを監視せよ。」どのような女なのかも分からなかったが、弁護士のルイ・ブレ、さらに飛び込んできたガゼット紙の新米記者などの協力により次第に状況が見えてくる。マリーは、リシュリュー郷の時代に枢機卿付き銃士隊長として名をはせ、その後戦死したフランソワ・ド・カヴォアの娘。
理由も分からずに屋敷を見守っていると、マザランがお忍びで馬車をのりつけ、実はマリーはマザランの女だったことが判明するなどてんやわんや。そしてダルタニャン自身も彼女と関係するが、意外な依頼を受ける。「父の戦死が納得できない。調べてほしい」

さら調べを進めるうちに彼女には弟にユスターシュ・ド・カヴォアがおり、マザランから追われていること、鉄仮面なる人物が存在し、彼がルイ14世出生の秘密に関係していること、それらの事実を記した日記があるらしく、それをマザラン、オルレアン公共におっていることなどが次第に判明してくる。事実追求、日記探し、ユスターシュ救出、それらを妨害しようとするマザラン側、オルレアン公側、活劇が次から次へと起こり読むものをあきさせない。文章はさながら講談調、楽しみながら読めばよい。

最後に鉄仮面とルイ14世についてはデユマの「鉄仮面」ほかいろいろな説が提唱され、小説の主題になっている。藤本ひとみの「ブルボンの封印」などもその一つ。作者もまた一つ新しい見方を示した、ということになろうか。

041119