二銭銅貨・屋根裏の散歩者  江戸川 乱歩

東京創元社日本探偵小説全集2

二銭銅貨
 乱歩のデビュー作にちかい作品。ある電機工場の給料日に新聞記者を装った男が訪れ、昼休みの隙をついて給料を持ち逃げしてしまった。幸い工場長と面談した際、吸っていたエジプト煙草から足がついて捕まるのだが、金の在処を言わない。ところが私の友人松村は南無阿弥陀仏の適当な字をのぞいた暗号で書かれた書き付けを発見、それを元におもちゃ屋におもちゃとして隠して有ると判読し、もらい受けてくる。しかし私は解読された文字を5つづつ飛ばして読めば「ゴジャウダン」になるじゃないか、回収したものは偽物だよ、と笑う。実はその書き付けを作ったのは私だ、と言う話である。
 暗号解きの典型的作品。なお6文字の中からいくつかの文字を消して出来る暗号の数は
消さない       1通り
一つ消す、5つ消す  6x2=12通り
二つ消す、四つ消す  15x2=30通り
三つ消す       30通り
で合計73通りになると、思うけれどあっているかな。

(1923 29)

屋根裏の散歩者
 「郷田三郎は、どんな遊びも、どんな職業も、何をやってみても、いっそうこの世が面白くないのでした。」とこの作品は第三者が、読者に語りかけるような調子で進んで行く。三郎は、明智小五郎と知り合いになり、犯罪に大いに興味を持つが、実行するわけには行かない。そんなおり東栄館と言う下宿屋に引っ越し、ふとした弾みで押入の中に寝てみた。そしてそこから屋根裏に上がれる事を発見し、実行して見たところ他人の予想もせぬ一面を見ることが出来た。虫の好かない医学生遠藤の室の上で節穴を発見、その節穴が寝ている遠藤の開いた口のちょうど真上にあることを発見して悦にいる。
 ある日遠藤の部屋に呼ばれて、彼に女と情死を試みた得意話を聞かされる。遠藤はモルヒネの小瓶を示しこれで二人死ぬ、と得意になっている。そのとき三郎の頭に殺意がひらめいた。三郎は逡巡した末、ある時その小瓶を盗み、あの節穴から水に溶いたモルヒネを寝ている遠藤の口に流し込んだ。犯罪は成功し、自殺として処理された。
 しかし現場を見た明智は目覚まし時計がセットされていたことに不審を抱いた。また三郎が事件のあった日から煙草を吸わなくなったことを聞き出した。
 ある日三郎が部屋に戻り、押入を明けると、逆さに吊した遠藤の首!ぎょっとして見直すと明智だった。「この黒いボタンは君のじゃないかな?」シャツに触るとボタンがない。あそこで落としたのだろうか。動転した三郎は、促されてすべてを白状してしまった。
 もう三度目くらいである。それでも読み返しながら、この完全犯罪を明智はどうやって解明するのだろう、と考えた。目覚まし時計、煙草を突然やめた癖、明智のボタンを使ったはったり、鮮やかなものである。明智の最後の登場の仕方も実にうまい。同時にのぞきと言うのは、誰にも興味のあるもので、それを小説に取り入れたところが素晴らしいとも思った。

(1925 31)
990929