6月19日の花嫁  乃南 アサ


新潮文庫

6月12日、後一週間で結婚する池野千尋は、婚約者の前田一行と雨の高速道路をドライブしていたが交通事故、気がついた時には一切の記憶を消失していた。自分の名前さえも。それから千尋の自分自身の記憶探しの旅が始まる。
以下一日、一日の千尋の行動と、それを見つめる前田の日記を並記する形で話が進められる。この作者の作品の特色に条件を説明せず、いきなり状況を記述し、読者に考えさせる書き方をする事が揚げられる。この作品もその伝で読者が主人公と一緒に自分探しをしているような感じになるところが面白い。
千尋は1ねんまえ、いかがわしい新宿の酒場で客引きをしていた、客の一人と今度の場合と同じ6月19日に結婚すると約束しながら姿を消したのだった。
千尋の母と称する人物が千尋を引き取りに来るが、やがて彼女が千尋の父親の元愛人で母親を追いだした女性、一緒にいた男が千尋の父親が破門した弟子の悪徳弁護士で二人は夫婦関係であることがわかる。彼らは千尋の後見人になり、父の遺産を略取しようとしていたのだ。
千尋が過去をようようの過程を経て、思いだし、彼らを非難すると、今度は千尋を精神病患者にしたてて、病院に送り込もうとする。いったんは騙されたフリをしながら脱出する機会をうかがう千尋…・。

トリックメーキングが非常に面白い。香山二三郎の解説では「私はその事件の探偵です。証人です。被害者です。その上犯人なのです。」という文で有名な、ジャプリソの「シンデレラの罠」との類似性をあげている。この作品はジャプリソの作品に比べ、現実性を感じさせるが、最後のあざやかなどんでん返しと言う点では今一歩かも知れない。私は犯罪と記憶喪失を組み合わせた島田荘司の「異邦の騎士」を思いだした。
020401