講談社文庫
僕は十六歳の高校生大庭久太郎。非常に特殊な「体質」を持っている。時々時空の「反復落とし穴」に陥るのだ。一旦落っこちるとそこからはい上がって来ない限り、都合九回同じ日が繰り返される。最初の周は「オリジナル周」、以下二周目から八周目までは何をやってもまた元へ戻るが、最終周におこったことは僕以外の周囲の人間にとっては本来的な「その日の出来事」となって変更はできない。
祖父はいまでこそエッジアップ・レストトラン・チェーングループの総帥で大変な金持ちだが、かっては安食堂を経営する賭け好きのとんでもない男だった。妻の深江が死ぬと、愛想をつかした僕の母で長女の加美寿は、大庭道也と結婚して家をでてしまった。次女の葉留名おばさんも同じで鐘ヶ江等と結婚して家を出てしまった。結局胡留乃おばさんだけが残った。
その後祖父は競馬と株で大成功、今の事業を興した。ところが胡留乃おばさんには子がない。そうなると後継者がいない。大庭道也も鐘ヶ江等も金なぞありはしない。母と葉留名おばさんは、なんとか子たちを胡留乃おばさんの養子にして、淵上家の財産を相続したいらしい。一方叔父は今まで遺言状を毎年書き換えてきたが、今度で最後にしたいと宣言する。
オリジナル周で僕は屋根裏部屋で祖父淵上零治郎と酒盛りをした。その後眠りこけて気がつくとが、第二周に入ったらしいのだが、祖父が殺されていた。僕は葉留名おばさんの娘ルナと兄さんの富士高が犯人ではないかと考えた。二人を拘束するが、三周目でやっぱり祖父は殺されてしまった。次ぎにルナの姉さんの舞が犯人と考えて拘束するが四周目で祖父はやはり殺されてしまった…・・。
以下同様に僕は何とか殺人を防げないかと考えて、落とし穴に落ちる度に犯人と目される人物を犯行時刻に祖父から遠ざけようとする。しかし何度やっても殺されてしまう…。最後はもう一周あることに気がついたり、あるいは「殺されない」と替えてしまったらなどと考えたり、いろいろバリエーションが広がる。
「バックトウザヒューチュア」という映画は、主人公が過去の世界に戻り父と母の過去を都合良く替えようとする映画だが、あれと同じで、こちらは九回もできる。
過去がもしこうなっていたらどうなるんだろうと考えるパズルのような小説。論理的には良くつめられていると言うべきなのだろう。しかし全体話が複雑すぎてややこしく、理解しがたく、しつこい。また登場人物の思考パターンはひどく若い感じがし、ストーリーとしての興趣は欠けるような気がする。
(1995 35歳)
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