徳間文庫
鳥羽須磨子のもとに、腹違いの息子の国彦と須磨子の弟の武中和己の緊縛ビデオが送られ、身代金2000万円の要求があった。国彦は父憲彦の膨大な遺産を譲り受けたが、奇矯な和己を奴隷のようにこき使うなど、奇矯な行動で知られていた。池に一面死んだ魚を浮かべて芸術と称したり、湘南の小島に巨大なペニスの塔を建てようとしたのだ。歌手志望の近石千秋と槻代要之助が、ビデオを送られた須磨子の行動をそっと追うと、彼女は、金を用意し、喫茶店のトイレの裏などにおかれた指示書を元に、取り付け道路しか出入り口のない湘南の小島に一人で赴く。
島で突然の爆発音。あわてて駆けつけると、須磨子が射殺されいた。島には誰もおらず、また島からでた者もいない。ところが要之助と千秋が捜査を進めると、島の、近くの国彦の別荘の地下密室から瀕死の和己が見つかった。さらに島の大きな岩の下にコンクリートの棺があり、中には国彦の死体とジャッキとあの2000万円。
状況証拠と和己の自供から、国彦が遺産獲得を目的として仕組んだ狂言誘拐劇で、国彦は和己に舞台づくりを手伝わせた後、別荘地下に監禁、自身で須磨子を射殺して金を受け取り、岩の下のコンクリートの棺に隠れた。後から、ジャッキを使って人が去った後出る予定だったが、手違いで出られなくなり死んでしまった、と考えられた。
この場合、和己は爆発時刻に別荘の地下密室に幽閉されていたから、犯人たりえない。しかしあくまで疑う要の助と千秋は、掛け金のかかった蓋と板を打ち付けたアルミの窓しか出入り口のない密室破りに挑む。
作者得意の誘拐劇。劇団「泥人魚」の話、国彦の奇矯な行動、千秋と要之助の愛を含む軽妙な文章と、小島からの犯人消失(石棺の中に隠れる)と地下密室からの脱出(瞬間接着剤による窓の内側からの接着)が魅力である。
990813