亜愛一郎の逃亡 泡坂妻夫


角川文庫

亜シリーズは、探偵亜の登場の仕方、警察官でもないのに、事件の核心にさりげなく迫って行くやり方が非常にうまいことに気がついた。物語の発想がユニークで、登場人物の会話や所作自体にユーモアがあり、なんとなく奇術にかかったみたいな感じがする。読み終わると読者はにやりと笑うこと請け合い!
第一話 赤島砂上
「自然に帰れ」電気もガスもない裸体主義者だけの島、赤島。箱崎幸男は、「週刊人間」を放り出して、絵を描く妻の京子と体全体が球を基本に出来ている石場明美を眺めている。「週刊人間」には、背中に普賢菩薩の彫り物のあるという暴力団元祖普賢の奈津の記事が載っている。そこに都会的な感じの新川冬子やヘゲタウオを観察しているという亜愛一郎、草葉十作などが現れる。と、そこに沖合いから一隻のモーターボート、なんと服をきている男が運転している。とんでもない奴と皆で取り押さえ縛り上げると、新川が「私が警察に届けます。」とモーターボートに飛び乗った。向こうから警察の巡視艇がやってきた。
亜だけが、服を着た男と新川の本当のねらいに気づいていた。
第二話 球形の楽園
四谷乱筆は大富豪だが極端な人間嫌い。近いうちにとんでもない災害が起こると信じ、蠍山の山腹に岩盤をくり貫いて洞窟を掘って住み、今その中に設置する球形のカプセルを作ろうとしていた。放射線を通さず、高度の衝撃、一万度以上の熱に耐えると言う。ところが四谷がそのカプセルにはいったまま出てこない。仕方なくドアを爆破して中に入ると刺し傷と打撲傷を受け絶命していた。刺し傷を受けてカプセルに逃げ込んだものだが、打撲傷の方は赤川次郎「三毛猫ホームズの推理」を参照のこと。
第三話 歯痛の思い出
物をなくしてどうしても見つからないとき、あなたはどうするだろうか。今までの行動を再現しながらどこにおいてきたか考えるのではないだろうか。歯医者に行った亜は、一緒にまわった上岡のおかしな行動に気がついた。予診室の前で、ポケットの中を探し回り、口腔外科の前では長いこと手を拭き、レントゲン科の前ではコップの中のものを飲むふりをし、薬局の前では靴の紐を結び直し、炭坑節のを踊るような手つきで両手を動かし、会計の前では誰かを羽交い締め締めにしたがあれは重いものを抱えるような形でもあった等。何だかハリー・ケメルマンの「九マイルでは遠すぎる」を思い出した。
第四話 双頭の蛸
「北海道の霧昇湖で双頭の蛸が出現した、との連絡。早速調査に行くと」読者は期待するが、実はこちらの部分は叙述トリック。亀沢均なる男の書いている小説の中味の話である。本筋はそのような投書が、おかしな小学生から来て調査・取材に行った時に起った殺人事件の話。現地の友人小村井とダイバーの江藤がボートに乗り霧昇湖に漕ぎ出し調査し、亀沢や亜などの一行は岸でたき火をしながら様子を眺めていた。突然銃声!ボートの上の江藤が撃ち殺された。銃はたき火から少し離れたところで発見された。たき火で暖められた銃が暴発し、その銃声と同時に刺殺し、予め用意した弾を死体に押し込む、という考えは非常に面白いと思った。
第五話 飯鉢山山腹
道路を入っていく車と出て行く車を見掛けたら人は道路は通じている、と考えるだろう。人を殺したが、地震が起って道路が陥没した。犯人は自分がその道路を出た後、犯罪が起ったように見せかけようと考えた。しかし入口で見ていた亜は、最初に入っていった車のボデイにはニウ島屋、出てきた車には屋島ウニと書いてあった事に気がついた。
第六話 赤の讃歌
阿佐冷子は失望していた。若いころ鏑鬼正一郎のあの渋い赤を基調とした絵に憧れて、この道に入ったが、曙光会会長になったこのごろの絵はやたらに派手で芸術と呼べる代物ではない。ところがふと知り合った亜と、正一郎の叔父浅日向夫妻を訪れた。夫婦の話によると、弟正二郎がいたが、正一郎の若いころ自殺しした、正一郎は幼いときに火事にあって、恐怖を体験している、実はワイン、ブランデー、すじこ、いくら、たらこ、カーネーション、りんごなど赤いものが苦手だった。亜は、これらの話から阿佐冷子の失望した理由を解き明かしてくれた。
第七話 火事酒屋
銀蔵は消防士になるのが夢だったが、背が低いばかりにかなわず、消防士の服を集め、いつもどこかに火事が起らぬかと探している。その銀蔵があるとき偽電話で呼び出され、すぐ近くで火事。焼け跡からその家の主婦掛屋節子の死体が発見されたが、鑑識の結果、出火1時間前位に殺されていたことが分かった。銀蔵が第一容疑者として疑われる。しかし、犯人を銀蔵にしたてようと、消防士の服を盗み出し、犯行後、怪我人に成りすまして担架に乗せられ屋敷をでた男がいた!
第八話 亜愛一郎の逃亡
湯量が少なくなって廃業寸前の温泉宿「有江屋」。テレビでは浮屋章治なる殺人犯が逃亡中とか。たった一組予約していた客亜愛一郎と東野先生がやってきた。主人の太郎は、花子とあり合わせのものを豪華ぶらせて出すが、亜と不思議に話が合った。そこに大地震!はなれに泊まっていた亜と東野を尋ねると、密室から二人とも消えていた。そして出なくなった温泉から暖かい湯がこんこんと湧き出ていた。人間消失!それにしても湯で雪がとけトンネルが出来た、そこから二人は脱出しましたとわね。
最後に亜は実はフツ国の王子様だったそうで、南のお国に帰り、亜愛一郎シリーズは一応終わりになる。
(参考)
http://www.asahi-net.or.jp/~JB7Y-MRST/awa/ad_f.html
泡坂妻夫事典(エンサイクロペデイアアワサカナ)が面白い。
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