アフリカの蹄    箒木 蓬生


講談社文庫


 外科医作田は、心臓移植の実際を学ぶために、ヨハネスブルグの大学病院に派遣された。しかしそこはアパルトヘイトの国、一方では白人の優雅な生活があり、他方では黒人の人間としてさえ認識されない生活があった。同僚のダニエルは、自分たちの優越を信じ「あいつらに一人一票の市民権を与えるのは狂気の沙汰だ。まして白人抜きでこの国を治めて行こうなんて言うのは思い上がりも甚だしい。」と喝破し、名誉白人とされる日本人の中には「白人がしっかりしているから、この国の黒人はビアフラのように飢え死にしなくてすむのですよ。」としたり顔に言う。そういう現状に、人間はみな平等と信じる作田は激しい怒りを覚える。
 作田は、ブラック・スポットと呼ばれる黒人貧民街にある診療所に時々赴き、黒人医師サミュエルを助けて治療に当たっていた。そこには作田を慕うパメラもおり、手伝ってくれた。子供たちに発疹のある子が出始めた。発疹をレフ助教授の元に持参して調べてもらうと、なんと絶滅されたはずの天然痘のウイルスが発見された。作田は、担当の主任教授や衛生局長で黒人有害論を唱えるノーマン・フォックスから、ブラック・スポットに立ち入らぬよう警告を受ける。レフ助教授にも圧力がかかったらしく、めっきり無口になった。右派に突き上げられた政府は、この際、隔離を名目に、黒人を白人社会の中に点在するブラック・スポットから追い出し、ずっと郊外の居住区に強制移住させる意向のようだ。
 ブラックスポットの発病者と死者は黒人の子供を中心に増えた。しかし白人の子は発病しない。ノーマン等の天然痘のウイルスを使った黒人殲滅計画の始まりだった。レフ助教授の父が密かにこの国に白人用に貯えられているワクチンをそっと流してくれたが発覚、作田の身にも危険が迫った。発疹から取り出し培養したウイルスと共に、黒人組織の手を借りて国外に脱出、国際社会に訴える機会を得た。しかし当局の追求は厳しく、黒人解放運動リーダーでパメラの兄ニールが拉致され、ウイルス持ち出しとワクチンが黒人の間に出回ったルートを激しく追求された後、惨殺された。
 黒人たちはワクチン要求などを掲げて、ゼネストを計画した。数の上では絶対的に多い黒人。彼らが職場を放棄すれば南アはとまってしまう!記者会見は最初ノーマンのペースで進んだが、目覚めたレフ助教授の糾弾等で逆転した…・・。陰の男が、ノーマンに責任を取れ、と迫る。ついにWHOにワクチンの製造が依頼された。パメラと作田を含めた無数の無抵抗デモ隊の歌声がヨハネスブルグを次第に支配していった。

 作田がどうしてあれだけ人種差別に怒りを感じるのか、作田が気は良いが、それほど教養があるとも思えない、家族に持ち帰ったら反対されるに決まっているパメラと結婚する気になったのか、その辺に疑問を感じ、考え出すときりがなく、作り物という印象が強い。しかしそれらを越えて、作者の人種差別に対する怒りが強烈に感じられるところが魅力で、読み進んでしまう。自分たちの立場の保全に終始する白人、弾圧に押しつぶされる黒人、良心の仮借と身の保全に迷う一部良識派の白人、それらの書き分けもすっきりしている。
 また、章のタイトルがまるで聖書の一節を引用したかのように含蓄のある文章になっているところも面白い。(1 私たちが何をしたというのだろう ただ肌が黒いというだけでつみなのだ 12神よ なぜあなたは私たちを忘れ給うたのか 21 戸を叩け 戸が開き いま道がひらける 等)
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