文春文庫
アグニは、中印国境近くにインドの依頼で亜紀商事が建てた原子力発電所である。「原発課」の工藤篤はチーフの斎藤等とともに、高レベル廃棄物貯蔵所を建設するために岩塩層内の廃坑を調査していた。しかしCIA過激派「フラワーチルドレン」の仕掛けた爆発により落盤事故が起こり、斎藤、工藤以外は皆亡くなってしまった。そして残った斎藤も、東京に戻ったところを襲われ他界した。
過激派は原子炉内に爆薬をセットし、必要なら衛星からの指令によって爆破し、中国のインド進出を阻止しようとしていたのだ。そしてその秘密を知っている亜紀商事関係者を抹殺しようと図ったのだ。
亜紀商事専務漆原は、腹心の須永に、工藤を中心にチームを作らせ、爆薬を除去するように、さらに作戦完了後は彼らを抹殺するよう命じた。二人以外の参加者は「営業課接待役」桂正太、「経理四課」仙田徹三、「社史編纂室」左文寺公秀、いずれ劣らぬ会社にとっては死んでもらって一向にかまわぬ落ちこぼれ社員である。指揮官は須永と工藤が争ったが、24時間以内に須永の身に付けているネクタイピンをとれるかどうかで賭けをし、工藤に決まった。最初は実現が危ぶまれたが、訓練を通じて次第に結束して行く。
いよいよ出発、しかし行く手の原子力発電所は高度の防御システムに加え、インド軍が神経を尖らせて監視していた。また「フラワーチルドレン」のローズとリリーが、近づくものを寄せ付けぬよう日夜見張っていた。
原子力発電所を襲う話なら高村薫の「神の火」、中印国境の謀略をめぐる話なら谷甲州の「遥かなり神々の座」、荒唐無稽な武器と括弧よさなら007シリーズを思い浮かべる。しかしこの作品には、いかにもまじめな文章の中に繰り出されるユーモアとずっこけぶりが目立ち、エンタテイメント小説としての楽しさを備えている。
放射能探知装置(クローク・ダイル)に爆薬を仕掛けろの命令は、英語が分からず鰐(クロコダイル)に仕掛けました、もう今生の思い出と噺家志望の桂は落語を演じ続けるが、おかげで音響捕獲機が誤作動し、警備システムが目茶苦茶になりました、鴉を訓練して、レーダーの真ん中にマグネシウム弾を運ばせ落下させて目潰しにしました、列車砲で何をうつかと思えば、アルミニウムの金属片を噴霧させ、無線システムを目茶目茶にしました、左門寺はジャンピングバルーンで方向を失い、敵のど真ん中に飛び込み尋問されるが、英語を知らないから何も答えられない、その彼が最後に「同時通訳をめざします。」と会社に辞表をたたきつけました・・・・なんだか、冒険落語の趣で笑わずにはいられない。
駄目サラリーマンを入れたチーム作りも面白い。彼らが危険に立ち向かう原動力は、復讐、大義、愛、野心・・・・。しかし一方でその考え方は極めて小市民的である。しかし、結局、困難な仕事を、九死に一生を得て成功させ、自信をつけ、それぞれの道を歩き始める。
優れた文章力、専門知識の深い調査をベースにした話の展開のさせかたは、劇的でスピーデイ。読者をぐんぐん引き付けて展開し、クライマックスへなだれ込んで行く。まさに冒険小説のお手本と思う。
000425
(1977 27)