緋い記憶 高橋 克彦


文春文庫

緋い記憶
古本屋で見つけた古い盛岡の地図、しかしそこには私が親しかった少女史子の家はなぜか空き地になっていた。私は同窓会を口実に故郷を訪ねた。そうだ、正子と寝た夜、私はあの史子の家を訪ねたのだ。そして暴行されたらしい史子を抱いた。しかし隣の部屋を見ると殺された父親がいた。真っ赤なおびただしい血…・それが緋い記憶だ。しかし皆は戦前住んでいたおじいさんと娘が殺された話は知っていたが、その後はずっと空き地だったと言う。
ねじれた記憶
岩手に勤務している男から見せられた画集の中の切り立った崖を古い旅館と眺める男女の絵。母に連れられて行った思い出がよみがえった。岩泉という辺境の地、旅館は思い出のままだった。お酌の相手にきた女は静子と言った。三日も逗留し、思い出話をし、関係した後、女は父の職業、名前を聞き態度を豹変「あなた、だれなの!だれなのよ。」と叫び走り去った。そうだ、静子は母だったのだ。昔借金のカタに、私を連れてこの宿に売春婦としてやってきた。
母子相姦の暗い思い出を現在と三十年前をないまぜにしながら描く。
言えない記憶
幼いときの友人たちとの会合で大城からあの台風の日に妹の典子が川に嵌まって亡くなったがあれはお前がやったのじゃないか、と非難される。あの時、典子の頭には撲殺の跡があった、両親はお前の家を調べさせてくれ、と言ったのにすぐ追い出された、という。とうとう私は物置に典子に連れ込まれ、パンツを脱がされ、逃げ出した話を白状させられる。しかし私はやっていない。ふと思い出す。あのころ母と叔父は妙な関係にあった。跡から物置を見たとき、漬物の樽から二本の大根がはみ出ているのが見えたが、あれは本当に大根だったか。物置の後ろは崖があり、その下は川になっていた。
遠い記憶
東北取材旅行に行った私は世理子にあう。世理子に案内されて行った家、記憶の片隅にある家だった。ところがそれは世理子の家だったと言う。思い出した!私は父と一緒にしょっちゅうこのオバちゃんの家に来てすごしたのだ!私は母よりオバちゃんが好きだった。親父が出張で忙しかった日、寂しかった私はオバちゃんの家を訪ねた。玄関が明けっ放しになり、鴨居にオバちゃんがぶら下がっていた。
膚の記憶
アレルギーに悩まされた私は散々苦労した末、それが行き付けの酒場で出されるミネラルウオータ「湖雫」にある事を突き止めた。母はその話にそそくさと逃げ出した。岩手の山奥を訪ね、その水が鍾乳洞の奥深くある湖から採取していることを知り、探し当てる。湖には白骨化した男女の死体。戦後すぐのころ、ある夫婦が流れ着いた夫婦ものの肉を食らったという噂があったという。私は良い子に育ったろうか。
霧の記憶
「早良哲也氏の「霧の記憶」を読んだが、作品に登場する幸子は失踪した妹の進藤咲子、ミチエは親友森美千代のことと思う。作者に問い合わせて欲しい。」と咲子の兄からの手紙。「霧の記憶」では倉本雄二こと早良哲也氏の作品はミチエがロンドンを立ち外国でケントと落ち合うことに成っているなどずいぶん事実を歪曲してある。倉本と語り合ううち、昔の殺人事件が次第に明らかの成ってくる。
冥い記憶
18才の私はあこがれている叔母や刑事の松平氏と9人で東北ミステリーツアーに出かける。ところが時々入る犯人、人殺しなどのささやき。そしてオシラ様に混じって私の名と佳子の名。恐怖が次第に私を覆う。淳子、淳子、血まみれの娘。そうだ、地蔵堂。お化けが淳子を一緒に死のうとした私から奪い取ったのだ。ヤツはこの壁の中にいる。手鏡、歳をとってやつれた僕。
「あなたは32才なんです。14年間、あなたは記憶を失っていた。そのころ起きた殺人事件検証のためにあなたを連れ出したのです。」

 幼いときの記憶と言うものはぼやけていて、それを後から考えて論理づけている場合が多い。ここにあげた作品はいづれもそのぼやけた記憶を明らかにし、その過程で犯罪が浮かび上がってくると言うスタイルを取っている。かなり理解するのが大変な作品であるが、雰囲気は非常に良く出ている。
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