赤いペンキを買った女     葛山二郎

創元推理文庫 日本探偵小説全集12

 裁判ものだが、どんでん返しが胸のすくように鮮やかである。
 検事の陳述概要=栗林辰二は、xx株式会社の吉屋文男が、xx銀行よりおろした社員の給料を輸送する車を運転していた。男が自動車に飛び乗ってきたが、吉屋の顔に笑みを見たので知り合いと思った。しかし突然首に手ぬぐいを巻きつけられ路上に突き飛ばされた。その時手ぬぐいに丸に一の字の模様を認めた。同時にぐったりとしている会計係員を認めた。車は走り去った。栗林は近くの警官に知らせ、現場付近を捜していたところ、公園のベンチの上でカタツムリの影を書いている元xx株式会社社員の小田三蔵にであった。栗林は直感的にこの男です、と叫んだので、警官が調べたところ丸に一の手ぬぐいを持ち、着ている中学校制服の二番目のボタンが取れていた。自動車は海岸近くで一時停車した後、再び走り出し、税関詰所に衝突して海中に転落した。運転していたはずの男は消えており、車の中から件のボタン並びに顔を硫酸で破壊された吉屋らしい男が発見された。以上の証拠から警官は小田を逮捕したが、犯行を否認した。

・・・裁判の過程でその日道を聞いた男がいること、栗林が犯行現場到着直前、目印の郵便ポストを左折したが、実は一本手前だったという不思議な事実が報告された。

 弁護人と検察のやりとり概要=笑み、を見たというのは錯覚ではないか、道を聞いた男がどのようにして道を教えたか、なぜ郵便ポストを見違えたか、など栗林の証言には怪しいところが多い。丸に一の字という記憶もあやしい。あれだけの事件がありながら事件現場を見た通行人がいない。カタツムリの作っていた影をなぞると犯行時刻になり、被告人にはアリバイがある。顔を潰された男というのも他に該当者候補がいる。犯行は吉屋と小田の共同犯行で、飛び乗った男などいなかったのではないか。

 既報=近くの病院裏に赤ペンキで塗りつぶし五分板が発見されたとの通報があった。赤いペンキを買った者を調べると、石原という女だった。彼女は小田の情婦だった。
991019