雨はいつまで降り続く      森 詠


講談社文庫

矢沢建彦は元M新聞サイゴン特派員で今は信州の山奥に引退している。昔の同僚の小池から転送された手紙の中に、デイン・ヴァン・シューからの物があった。「ゴローは生きている。囚われの身で、明日の生命もおぼつかぬ状態である。私は、今金に困っている。有力な情報と引き替えに助けてほしい。」元ジャーナリスト叶吾郎は戦闘中に死んだはず。しかし二人は、友人で美貌の反戦歌手ドー・チー・ナウを争った仲。どういうことになっているのだろう。
矢沢は、早速大村収容所にシューを訪ねるが、シューはあっさりと何者かに殺されてしまった。ホーチミンでの叶の写真が見つかった。背景からごく最近撮られた者と分かった。やっぱり生きていた。矢沢が叶と信じて埋葬した人物は偽物だった。さらに写真の背景には謎の二人の人物が写っている。矢沢が調査を始めると、求める誰もが次々と殺されて行く。見え隠れするスパイダーなる組織。現場にいつも現れる禿げ上がった赤毛の大男。矢沢はベトナム時代の友人劉の助けを借りて、叶を探しに一人サイゴンに密入国する決心をする。
バンコクでサイゴンの記者クラブで一緒だったパスカルと再会した。レ・キム・タンなるベトナム人になりすました。シューの弟ソンに叶の行く先を聞こうとするが、これも殺されてしまった。ソンが残していった資料に目を通す。ベトナム戦争時にわき上がった第三勢力はカソリック教徒や仏教徒に支持基盤をもつ民主諸勢力である。ナウは、その中心人物だった。チュー政権も解放勢力もこの第三勢力を抹殺しようとした。米国は一部に保護しようと言う動きもあったがCIAはラルフ・ブライアン大佐を中心とする特殊工作班を使ってたたきつぶそうと考えた。「折れた矢」計画である。パスカルによれば叶は国家反逆罪でホーチミン郊外の秘密監獄に捕らえられているらしい。
ホーチミンに渡る。
渡りのつけてあったフク一家の元に潜り込む。民警のザップ刑事がしきりに様子を探っている。シューの知り合いニュアンの話では、サイゴン政府時代に麻薬の密輸を担当していたズン少佐とドウオン大佐が消え、北の政府に潜りこんだらしい。叶と写っている二人の男は彼らではないか。するとどうやら彼らがCIAを手先に使い、第三勢力の息の根を止めようとしているのではないか。叶は知りすぎたために処刑されようとしている?
ついに秘密監獄を良く知っている酒浸りのヨン元大尉を発見。その手引きでニュアン、ニュアンの義弟トニー、私の4人は、叶を助けるため秘密監獄に忍び込む事にした。それはまた敵の罠でもあったのだが…・。

井家上隆幸の解説によれば、作者は「冒険小説の定義は難しいが、単純化して言えば「男のロマン」を描いた小説だと私は考えている。」としているそうだ。まさにその通りで文章に詩的な味がし、楽しくなる。同時にベトナム戦争の本質と戦争のくだらなさを良く教えてくれる作品である。

・歴史を信じない者は歴史に復讐される。歴史だけしか信じない者は孤独になる。(上233P)
・ 歴史はいつも人間を裏切ってきた。歴史には進むべき目標や目的なんぞないから、いつでも戻ろうと思えば、一挙に百年でも二百年でも交代できる。その繰り返しが人類の歴史というわけさ。(下26p)
・ 戦争なんぞは、どれもこれも、皆間違っているよ。戦争は理屈ではない。殺し合いなんだ。殺人に、言いも悪いもありはしないじゃないか。…・・日本は侵略戦争をした。アメリカは正義の戦争をやっていた。だから、広島が原爆でやられたことは仕方がないのかい?(下129P)
・ 革命なんて言うものは、そんなものさ。大勢の人間が傷つき死ぬ。しかし結果は権力者が人間からブタの独裁者に取って代わられるだけのことだ。それも、人間よりももっと始末に負えぬブタにな。ジョージ・オーウエルの「動物農場」は真実を語っている。(下247P)
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