アンゴウ           坂口 安吾


創元推理文庫 日本探偵小説全集10


矢島は出征に当たって蔵書を神尾に与えたが、神尾もまもなく出征、戦死した。その間に空襲があり、矢島は二人の子を失い、妻は目を失った。
復員後、矢島は古本屋で親友神尾の蔵書を見つける。それには本のページ、行、文字番号を使った暗号文。つなげてみると「いつものところにいます。七月五日午後三時」とあった。さては妻は神尾と浮気をしていたのか、と疑い、その古本の出所をあたる。最後に残りの古本を保管している男を突き止め、調べると暗号文は18もあった。
しかしそれは二人の子供の秘密の連絡簿であった。
「矢島は然し満足であった。子供の遺骨をつきとめることができたよりも、遥かに深く満たされていた。私たちは、いま、天国にいます。暗号は、暗にそう父に話しかけ、そして父をあべこべに慰めるために訪れてきたのだ、と彼は信じたからであった。」(311p)