講談社文庫
明治40年の栃木県谷中村。足尾銅山鉱毒事件をめぐり、官憲と立ち退きを反対する農民が対立する最中、ひとつの密室殺人事件が起こる。場所は普段人の通わぬ周囲を沼等で囲まれた水害避難所の中、内側からは閂が掛かっていた。喉をかき切るられていたのは反対派の勝野。彼は死の間際に「正造が・・・」と言う。その側には反対派の巨頭、田中正造の先の尖った杖。1種類しかない足跡。犯人は正造と考えられるが・・・。
村の娘おようの見たものは菅傘をさして事件直後小船をあやつり逃げていった正造らしい男。しかし、船が浅瀬に乗り上げた事から、彼女はその男がびっこであったらしいと証言。おようは殺害される。
事件を挫折した文学青年岸野と共に追っていた記者藤田は、反対派農民を煽動していた男小山が実は警察のスパイであり、その犯行だと考えるが、その小山も殺される。
事件は迷宮入りになるが、1年後東京で働くようになった藤田のもとに、地元の警察部長の関が尋ねてくる。そして告白。実は岸野もまた警察のスパイであり、すべては彼の犯行であったと・・・。おようは岸野が犯人と見破ったため、消されたと言うことだ。
殺人の方法は勝野を水害避難所に呼び出し、正造の杖を矢の代わりに用い、弓で射たもの。撃たれた勝野は苦しみ、自分で小屋に駆け込み、閂を掛けた。被害者自身が密室を作ってしまうところは面白い。
鉱毒事件と密室殺人事件をたくみに組み合わせている。作者は古河の出身で史実をよく調べている点も興味深い。