双葉文庫
西暦2050年、親たちに捨てられた多くの混血児たちは、東京東地区つまりB・D・T(BALL
DOWN (煮詰める)& DOWN TOWN)に住んでいる。彼らは「ホープレス・チャイルド」と呼ばれ犯罪者となった。これと相対峙するように西地区が在るが、そこには金持ち日本人が威張り腐って住んでいる。
おれヨヨギ・ケンはホープレス・チャイルドだが、有能な私立探偵である。同じホープレス・チャイルドからのし上がった小説家石丸ヨシオから、「グレイゾーン」というクラブで働いていた売春婦ガーナを探して欲しいと頼まれる。イスラム系愚連隊「ベイルート・タイガース」のボス、アリフ、口入れ屋のばあさんツキモト等とさぐるが、謎の二人組みがあらわれ、皆消されてしまう。日本人警察官の中では硬骨漢池谷の助けで、アリフの残党を倒し、謎の二人組襲撃を避けるうち、事件の背景にあるものが次第に明らかになってくる。
ホーワ・インダストリーの兵頭会長、宮本社長があやつる「二・ニ・二会」の新都市開発構想研究集団は、B・D・T地区からホープレス・チャイルドを追い出し、日本人だけの日本を作ろうとしていた!一方グッドガイ・モーリスは、しばしばヨヨギ・ケンのピンチを巣くってくれたが、彼はホープレス・チャイルドと日本人の平等な社会を作ろうとする過激派T・L・Fのリーダーであることが明らかになる。
ガーナはT・L・Fのスパイであることが露見して殺されていた。池谷と二人で倒した謎の二人組は兵頭会長が引き抜いた現職警官だった。いよいよ兵頭会長等との対決が始まる!
この作品は近未来を描くことによって、現在流入する外国人対策に政府の腰がひけていることを痛烈に皮肉り、問題提起をしているところがすごい。ボーダーレスの進む状況の中で民族主義はいかにあるべきか。世界のあらゆるところで現在行われている議論である。その帰結を近未来というオブラートに包んでオーバーに表現し、読者の関心をその点に向けている。さらにこの問題を「200年前、この国はやはり、外国との交渉を受け入れるか否かで大きくゆれた。」と、明治維新とまで関連付けている。
大沢 在昌というとつい「新宿鮫」ばかり、思い浮かべるがこのような作品があることに驚嘆した。
「ホープレス・チャイルドが増えた理由はいくつかある。ひとつは2000年前後、日本が世界で一番金持ちだった頃、アジアや崩壊した共産主義国家ら、大挙して外国人が出稼ぎに流れ込み、売春を含む生殖行為の産物として生み出された。ふたつめは、それを愚かな政府が長い間認めようとせず、税金を納めている外国人労働者にまで市民権、参政権を与えなかったことで諸外国の突き上げを食い、急遽「正業を持つものには市民権を与える」そして「この国で生まれた子供に対しては日本国籍を与え、かつその扶養者1名については永住権を与えるという、<新外国人法>を制定したことである。この通称、<新外国法>は、密入国外国人にも適用される事になったため、国内にそれまでいた不法外国人は、せっせと子作りに励んだ、というわけだ。それが結果、限度を超した混血児のベビーブームを呼び「子供はひとりで充分」の親たちに捨てられた混血児たちは、ホープレス・チャイルドと呼ばれるようになり…・。(11p)」はそのまま現在の政府の不法外国人対策を批判している。
そしてその無策の帰結はヨヨギ・ケンと兵頭・宮本の論議となって現れる。
「腐ったのは全部、ホープレスのせいなのか」
「そうだ。こちらに落ち度はあった。おまえたちの親を受け入れるべきではなかったのだ。その頃の日本は豊かで、その富に目のくらんだ者、次々とこの国にやってきた。この国で一月働けば、母国で1年暮らせる、といってな。」
「あんたたち日本人は、自分の手を汚す仕事がやりたくなくて、俺たちの親がやってくるのを見てみぬふりをした」
「おまえたちの親は、アフリカの奴隷のように連れてこられたわけではない。自分の意志でこの国にきた。そして厚かましく住み着いたのだ。こちらの先祖が懸命に働いて豊かにしたこの国に、寄生虫のようにな」
「人には生きて行く権利がある」
「権利は自分の国で主張すればよいことだ」(311-312p)
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