講談社文庫
女性の立場から、日常的な事件を捕らえて描いている、なかなか洒落た短編集である。表題作が現実的には無理があるが、ブラックユーモア的で面白いと感じた。「ある失踪」も成田離婚など最近の風潮を捕らえて推理小説化したものだが、現実性はともかく興味を引いた。
ベッドの中の他人
ブラックユーモア的小説。圭子と勝彦の情事の場面から入って行く語り口が面白い。勝彦には美津江という妻がいるのだが、その兄の友永が尋ねてくるのを恐れている様子。最初の訪問者は…・空き巣だった。勝彦がベッドに隠れ、圭子が追い返す。それが終わると勝彦に恋人がいることが発覚したり、別の恋人セツコが訪問してきたりする。やがて二人はこの犯罪を成就させた後、たがいに相手を裏切ろうとしている事がはっきりしてくる。犯罪…つまり二人は美津江に睡眠薬をすでに飲ませ、すでにベッドの中に眠らせているのだ。後は近くの用水に投身自殺させればよいのだ。最後に美津江の遺書を見た友永が駆けつけてくるのだが…・。
社長室の秘密
社長の小野沢はもう人生に執着を持っていなかった。秘書の竹下紀子が可愛く、彼女をある有能な男と添い遂げさせようとしていた。しかし、竹下は一度総務部の藤尾十関係し、彼に強請られているらしい。そんなおり、ガス中毒事故で藤尾が死んだ。側には社長室にあったウイスキー、中から睡眠薬が検出された。小野沢は自分が睡眠薬を入れたと主張する。
故人の名刺
春日楊子は、テレビ局課長の中保を通じて紹介されたファンという男から「和久本昌也」なる名刺をもらってびっくりした。それは博多で変死を遂げた忘れることの出来ぬ助監督の名刺ではないか。やがて彼は曽根平伍なる地元の富豪であること分かったが、曽根は自殺して果てた。どのような謎が隠されているのか。
ある失踪
尾崎伸一は秘書課の美人淳子と結婚したが、新婚旅行から戻った晩、淳子はネグリジエ、サンダルはきのまま突然いなくなった。実は画家の豊久匡介は、夫の元を抜け出した淳子とパリに旅立つつもりだったが、彼女は現れなかった。それから5年。もう一人彼女に関わりを持つ男が、淳子のことを思いだしていた。
猫が死んでいた
二三子が康英の結婚を受け入れる条件は飼い猫のミツを伴うことだった。結婚当初は問題なかったが、やがて二三子はミツを床に入れ、時には康英よりも可愛がっているように見えた。康英が出張した日、ミツが暖かい風呂の中で死んでいた。ミツは事故死か、夫が殺したのか?
山手線殺人事件
光吉誠は恋人の山崎千代子が早田を伴っているのを見て眉をひそめた。山手線、内周り。品川で早田がおり、光吉は千代子を食事に誘うが、母が上京したとかで断られた。上野駅で別れた。千代子は田端駅近くでグリーンのスカーフで首を絞められて死んでいた。山手線を2周近くしたらしい。容疑をかけられた光吉が調べ出す。
階段
私の家は私と娘の雪子、そして「亡くなった夫」の自慢話ばかりする家政婦の君枝。ただ私には哲夫と言う恋人がおり、彼は時々我が家に泊まった。我が家の階段の危険性は十分分かっていた。しかし哲夫が階段から落ちて亡くなってしまった。私を取られることを恐れて、雪子が哲夫をつきおとしたのだろうか。
まえ置き
いつも前置きが長くて出世のおくれた雲野。大川は彼とは好対照で、同期だが調子が良く、出世がしら。その大川が交通事故で人を死なせ、雲野に犯人役を引き受けてくれ、と泣きつく。
動機なし
厳しい夫のいない日、柏木とも子はいままで入ったことのない喫茶店なるものに入った。そして「誰も来る人はいません。」という少女と知り合う。二人で海岸に散歩に行くが妙な事故で少女が海に落ち、死んでしまう。とも子はそのまま逃げ出したのだが…。
一年先は闇
淳子は妻のある持木と関係している。その淳子のもとに「生命保険の契約では、一年と一日でもたっていれば、自殺でも保険金が下りるのをご存知?もし私が殺されたら、あなたのせいよ。」まもなく持木の妻が自殺した。そして「あなたが殺した証拠を握っている。」と、淳子を脅した女の後をつけると、なんと持木の弟の妻ではないか。持木の妻は自殺か、他殺か、他殺なら誰がやったのか?
020421