びっくり箱殺人事件        横溝 正史


角川文庫

びっくり箱殺人事件
作者の作品の中でも非常にユニークな作品ではないか、と思う。ドタバタ喜劇調、作者は何か楽しみながら筆を進めている風、そこに終戦後の物資不足時代の陰がかいまみえ、あざやかなどんでん返しとあいまって、非常に面白かった。
梟座というのは、当時丸の内にあった中位の劇場、踊子たちが脚をあげるアトラクションが主流だった。呼び物に元活ベン士で探偵小説なども書くという深谷幽谷一党を招いて「パンドーラの匣」なるレヴユーを行おうということになった。
深谷幽谷、しゃっくりが出る上酒癖の悪い蘆原小群、喧嘩は好きだが弱い半紙晩鐘、シバラク君の異名を持つ柴田楽亭、幽谷の後輩灰谷銅堂、顎の長い顎十郎、かれらがフランケンシュタイン、せむしのカジモド、キングコング、ハイド氏、睡り男、カリガリ博士などの紛争で登場する予定という。ところが暗い楽屋で、何者かに全員ぶちのめされ、あざを作ってしまった。だれ一人敵の正体を見ていない。
そして舞台におかれたパンドーラの匣、本来はパンドーラ役の尻軽美人紅花子が開く予定だったが、妙な脅迫状が入って、パンドーラの夫エピミシュースに扮する石丸啓介が開いた。中からスプリング仕掛けの短刀が飛び出て、ぐさっと胸に突き刺さり、石丸は絶命してしまった。短刀はシバラクのもの。
レビューの作者細木原竜三、新聞記者のくせに記事がかけずトンチンカン先生の異名を持つ野崎六助、等々力警部等の事件捜査が始まる。幽谷一党以外にも怪しい奴がいる。興業主の熊谷久摩吉、幽谷の美人マネージャー恭子、恭子に追い出された元マネージャー古川万十、紅花子が引っ込めば主役が回ってくる柳ミドリ、夢遊病の気のある企画部田代信吉、そしてせむしで「オペラ座の怪人」なる異名をもつ剣突謙造・・・・・容疑者は多士済々。
特に野崎は古川をあやしいとにらんでいたが、その古川は空中ゴンドラの中で二本目のシバラクの短剣を受けて絶命していた。
ようやく野崎は楽屋にある柳の鏡台の引き出しをあけ、へんてこな物を取り出し、庭に投げ捨てようとした剣突謙造を捕らえた。へんてこなもの・・・・径七センチ、長さ三十センチぐらいの、色布で作ったソーセージみたいなもの、さきにお椀くらいの球がついており、腸づめの内部は針金じかけのばねになっていた。後になってこの先を誰かがボクシングのグローブにかえ、最後に犯人が短剣に変え匣にセットしたことが分かる。
ようやく最初の事件が紅花子を目的とした誤認殺人であることが判明し、彼女に深讐メンメン、遺恨コツズイと言われる幽谷が疑われるハップニングもあるが、それが晴れると今度は蘆原小群が三本目の短剣を刺されて死体で発見された。直前に彼は犯人が分かった風なことを言ったから消されたらしい。
そして剣突謙造の首つり死体。犯人は剣突で最後に追いつめられて自殺した。動機は柳ミドリを密かに恋していて、彼女をスターにするために紅花子を殺そうとした。しかし誤って石丸を殺害、古川と蘆原は口封じのために殺された。
これにて一件落着。と、思いきや、こんな風に終わっては作家の能力を疑われる。もちろん、どんでん返しがあります。最後に真相を語る幽谷先生と犯人の対決!
殺人セットの細工をしているうちにグローブが飛び出し、あざを作ってしまった。そこで
グローブを盗み出し、深谷幽谷一党をやみに紛れて皆殴り付け、あざを作ってだれが犯人だか分からなくした、しかし犯人のあざは右側だったが、殴り付けたあざは左側に出来たため発覚してしまった、という証拠隠しが面白い。

蜃気楼島の情熱
金田一のパトロン久保銀造の友人志賀泰三は、瀬戸内海の小島に竜宮城みたいな小島を建てた。日本趣味とも、支那趣味ともつかぬ、摩訶不思議な構造物だが、新聞や雑誌にも報道されてちょっと評判になった。
アメリカでしこたま稼いだ彼は今は、日本趣味に転向し、村松医師夫婦のとりもちで一緒になった歳の離れた静子夫人をこよなく愛している。
金田一と久保は竜宮城に招待されて一夜を過ごすが、ただならぬ気配に明け方近くに目覚めた。寝室で静子が絞殺され、志賀が「静・・・・静・・・・おまえはなぜ死んだ。おれを残してなぜ死んだ。」と号泣していた。
金田一が調べるとおかしなことが分かった。いつもはきちんと寝間着を着る静子夫人が腰巻き一つの裸体に近い状態だった上、普段は身につけないズロースをはいていた。そして金田一を運んでくれたランチから彼女のブレスレットが発見された!死体移動の証拠を次々と発見して行く過程が面白い。
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