ブラジル蝶の謎         有栖川 有栖


講談社文庫

「ロシア紅茶の謎」と同じ様な趣。こういうのは少々現実性が薄かったり、人間関係が良く書けていなくてもかまわない、トリックやオチがあざやかであれば、という気がする。そんな意味で「鍵」が良くできていると感じた。
ブラジル蝶の謎
ブラジル蝶と言えばモルフォ蝶、並んで好事家はアグリアスを愛する。「土師谷です。」の電話がかかって来た。何かおかしい。皆が駆けつけると、アグリアスの標本が天井一杯に張りつけてあった。川辺先生が下を見ると、ソファーの上の土師谷朋芳が死んでいた。死体は携帯電話を握っていた。まず殺し、皆の元に集まり、携帯電話でその部屋にある電話に被害者の声をまねて苦しげな電話、いの一番に駆けつけて、皆が天井の蝶に見とれている隙に被害者に携帯電話をの握らせる。
妄想日記
炎をあげて焼け死んだ男は明石で精神科病院を経営している深山晃久の同居人宇田美彦だった。彼は深山の一人娘静代と結婚したが交通事故で息子を失ったあげく、静代が自殺してから、ノイローゼになり、深山邸の地下部屋にいわば軟禁されていた。最近は手鏡、財布、鈴、米粒、玉葱、塩などを自室に持ち込み、元のお手伝いには「私は人を殺した…・。」のファックスを送っていた。深山からは訳の分からぬ文字で書かれた日記や絵が示される。本当は何が起こったのか。医師は争って死んだ義理の息子を自殺に見せる必要があった。しかし最近息子は別の昔の交通事故の天罰を恐れ、魔除けを自室に集め、体を「南無阿弥陀仏」の文字で埋め尽くしていた!だから燃やして…。落語のオチみたいで傑作。
彼女か彼か
オカマの愛のもつれによる殺人劇。でも女性の主張する「一晩一緒にいたけれど、彼女が男だって気がつかなかった。」というのは嘘ですよ。髭が生えてくるでしょう。でもこのアイデアはどこかで読んだ気がする。

甘木一郎社長五十歳、茉莉夫人二十八歳、茉莉夫人の宝石箱がなくなり、甘木氏が可愛がっているはずの秘書粟野征民が撲殺された。ところが社長も茉莉もなぜか冷たい。やがて宝石箱が見つかった。別のところで茉莉が主張する宝石箱の鍵が見つかったが全然あわない。ではこの鍵は何の鍵だろう、と作者は読者に思いもかけぬ謎を掛ける。粟野を殺害犯人は甘木社長である、とのヒントまでつけて。
人喰いの滝
現場には薄く雪が積もり、滝壺までまっすぐにのびる被害者の長靴の足跡と、6時間後に発見者が往復した足跡だけ。ちょっと眺めただけでは被害者は自殺したとしか考えられないのだが…。それにしても被害者が死んだ頃、雪が降っていた。長靴の足跡に雪が降り積もった後がないのはなぜなのだろう。
蝶々がはばたく
風が吹けば桶屋が儲かる、は本当にあり得るだろうか。追われている男女が窓から砂浜に降り逃亡した。しかし足跡が全く消えている。それが地球のチリ地震で発生した津波のせいだなんて本当にありだろうか。
001009