文福茶釜       黒川 博行


文芸春秋ハードカバー

古美術で一儲けをたくらむ男たちの騙し、騙され物語。作者が芸術大学を卒業し、高校で美術を教えている強みを生かした作品で古美術と贋作についての蘊蓄が面白い。殺人を伴わなくても十分迫力のある推理小説が書けることを証明しているようでもある。
山居静観
星野産業が経営が苦しくなり、収集した絵を売ることになったが、その中に柏木渓斎の水墨画があった。美術年報社の佐保は、墨絵を腕の良い表具師のもとに持ち込み、相剥を作り一儲けしようとたくらむが、星野産業に商法違反の疑いで家宅捜査が入り、急遽返品しなければならなくなった。それでも相剥の方を返し、本物を鑑定人に見せ、鑑定書を書いてくれるよう依頼するが・・・。
・墨は紙にしみこむので同じ絵柄がそっくりそのまま、紙の下層にまでうつり込むのである。画仙紙や唐紙、鳥の子紙などの端をめくって丸い棒に巻きつけ、均一な力を加えて引っ張って行くと、ほんの数分で二枚に分離する。(30p)
宗林寂秋
表具師の牧野が、下鴨の豆腐屋の長男が「オヤジが死にそうだ。道具を鑑定して欲しい。」と言うので、でかけると高麗の井戸茶碗と宗林の茶勺があった。大正十年に仁科子爵が売り立てたものだと言うことで、箱書きも立派、その上当時の目録に写真が載っていた。買い取った牧野は坂辺と組んで、買い手を捜すが、途中で贋作と判明した。目録の写真を貼り替える手口だったのだ。それならと別に贋作2点を作り、情報の漏れていない地方の名家に売り込んでしまう。
永遠ひょうびょう
楠井享太郎の遺族が、関西大震災で被害を受けて金がない、故人の作品を買い取ってくれと言ってきた。尾山が大野木と出かけて行くとアトリエにふるぼけたA.Tanumaのサインのある石膏の原型像。この原型から5体とるとして、「彫刻界の帝王」田沼彰の作品なら1個1000万、5000万になる!。遺族の話によると、むかし楠井は名の出なかった頃の田沼の世話をしたという。話が合うと、密かに喜んだ尾山はすべて作品を買い取ると約束。ところが大野木が、石膏の原型像だけ抜き取って買い取り大慌て。話をつけてふたたび買い取るが、妹の玲子は「大震災でブロンズ像はみんな壊れたいうのに、なんで石膏の彫刻が無傷なんやろ。」
文福茶釜
福井の名家に訪れた男二人は、留守をしていた婆さんを騙し、芦屋釜を手に入れる。騙されたと分かった一家の相談を受けた末永と佐保は、犯人の初出し屋を突き止め、売り先から買い戻しをはかるが、高すぎて手がでない。悔しい婆さんの遺恨を晴らそうと、漫画家朝倉カゲオの原画や漫画本の贋作を作り、旧家をかり、二人を呼び出し、とんでもない高値で売りつける。
色絵しょんずい
岩崎という男が富南市の役人をつれて、久家を訪れ、「中国陶磁展」を開くので、所蔵の明代永楽期の染付大皿等を出品して欲しいと言ってきた。この展覧会には「友愛平和会」なる宗教団体の近衛頼章が力をいれているという。久家から相談を受けた佐保は、図録を作らせてもらう条件で調査を開始、友愛平和会を調査。近衛は末永なる食わせ物で友愛平和会が出品する品物はほとんどが贋作と見破る。芙峰堂の赤松と相談し、末永に贋作と認めさせたうえ、いくつかを赤松の作品に替えさせ中国陶磁展を開く。佐保は図録で儲け、赤松ははくのついた作品を売り歩く・・・。

・陸運局で、自動車ナンバーを所定用紙に記入し「登録事項等通知書」を受け取り、本名を知る。(258p)
・ヤメ刑の探偵事務所と警察のコンピュータデータ(260p)
・システム金融=500万貸付、同時に500万の壺を買わせる。客は1000万の元金に利子を払う。年利は40%で法定利息内だが実質80%。(262p)
・熱ルミネッセンス法=土や粘土は自然放射線を吸収蓄積している。この粘土を土器にして焼成すると、それまでに蓄積した放射線エネルギーが高熱にさらされてゼロになる。焼成された陶磁器はその後、再びゼロから放射線を吸収し始めるため、胎土中の石英を取り出して蓄積線量を測定すれば焼成された年代が明らかになるという。(276p)
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