ダレカガナカニイル・・・・・ 井上 夢人


新潮文庫

城東警備保障に勤める西岡悟郎28歳は、客の家の盗聴をして、小淵沢近く大高村に追いやられた。松崎康雄と共に担当する仕事は新興宗教団体「解放の家」の警護。大高村では反対運動が盛り上がっており、池永良樹は従姉妹の享子にあわせて暮れと必死だ。
そんな中教団の葉山晶子と話し合っている最中、僕は突然倒れた。そして気がついた時、僕の頭に知らない女性がいることに気がついた。そして突然祈祷堂から出火。教祖の吉野桃紅の焼死。
僕は会社をくびになった。しかし「頭の中の女性」は語り掛ける。私はここからでたい、そうだ、僕もお前を追い出したい。僕は次第に自分の中にいる他人が桃紅ではないかと考え出した。僕は再び解放の家に向かった。
娘の晶子との対話。解放の家は宗教じゃない。私は子供の頃から変わった体質を持っていた。肉体から霊を解放させ、外から自分を眺めることが出来る技術だ。私はこの技術をみんなにお教えてあげようと思った。だから最初は小人数だった。でもそれが評判になると母は商売として考えるようになった。進歩に段階を設けた。信者から金を取るようになった。あちこちに支部ができた。私は母の道具として利用された。
ふとしたことで僕は晶子が桃紅自身であることに気がついた。僕の「頭の中の女性」は晶子の母親であると知った。火災原因と内なる声から起こる犯人追及の声にせかされて、僕は何度もモニタービデオを見た。蛾が飛行軌跡を描いて二度飛んでいる。ビデオは肝心な部分が前の時間のコピーに摩り替えられている!僕は、利用された晶子が母を殺し、証拠隠滅のためにろうそくと灯油を使った時限発火装置を利用した、と考えた。晶子は僕の元から姿を消したが、僕は果てしなく彼女をいとおしく思うようになっていた。晶子も同じだ。
ふたたび、僕と晶子の対決。どうしたら僕の中にいる「頭の中の晶子の母」を追い出すことが出来るのだろうか。それはまた晶子と母の霊の対決でもあった

井上夢人は30代徳山諄一とコンビを組んだ岡嶋二人名で「焦茶色のパステル」「チョコレートゲーム」など多くの名作を残した。この作品はコンビ解消後の第一作である。自分は自分で認識し、頭の中に入り込んだ他人を見つけるという設定が面白い。
私の読んだ作品リストの中からこれに近いアイデアを取っているものをかき出してみる。
(A)自分が意思と関係なく他人になってしまう
・科学的?なもの やぶにらみの時計(人為的に信じ込ませる)、クラインの壷(ゲームマシン)、魔術はささやく(催眠術を使う)
・ 非科学的 変身(東野圭吾 脳の入れ替え=フランケンシュタイン型)、 本作品(他人の魂が入り込む)、変身(カフカ、虫になってしまう)
(B)自分が分からなくなってしまう
・ 記憶喪失 異邦人、僕の殺人、ドグラ・マグラ
ほかに「生ける屍の死」は肉体が死んでも、精神は死んでいない屍の跳梁が主題。
ただホラー小説でありながら、怖さがあまりなく、何となく僕と晶子のラブストーリーのように感じられるところ、それに伴う長い会話がちょっとだれる感じがした。
(1992 42歳)
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