デイール・メーカー      服部 真澄


祥伝社ハードカバー

「ハリス・ブラザース」は故ジェイク・ハリスの作り出した熊のデニーなどの商標権を手に躍進したメカ・メデイア企業で、最高執行責任者のノックス・ブレイガーは社の発展のみを願う冷たい野心家である。
大株主、女性副社長シェリル・ハサウェイの案内で、スタン・ウイストンは著作権をめぐって係争中の託児所を訪問した後、心臓発作で倒れ、植物人間になった。何者かが遺産の行方を案じたのか、資産状況をシェリルの元夫フランク・フリンに調べさせ始めた。
ノックスと幼い頃から争い、今ではコンピュータ・ソフトを基盤にハイテク事業を展開する巨大企業「マジコム」の会長兼責任者ビル・ブロックは「ハリス・ブラザース」の獲得を考え株式の公開買い付けに踏み切る。スタンの株をねらって特撮技師レイモンド・スプーン、ノックスと反りの合わないシェリル、その同棲相手反健斗等を巻き込む。
当初ビル・ブロックの公開買付価格は110ドルだった。しかしノックスはそれを上回る条件を社員に提示する一方、28%の株を所有する筆頭株主アーガス・ボナーを抱き込み防戦に努める。ビル陣営はどうして彼らがそこまで強気に出るか検討したところ、一つはタイムカプセルにつめられたジェイク・ハリスの未発表作品だった。これは反やレイモンドが苦労して写真に取り、情報を握った。もう一つはL.B.O(買収予定企業の資産や収益を担保に、買収資金を借り入れる方法)である。
これらの事実を掴んだのち、ル・ブロックは改めて130ドルで公開買付をすると発表。
アーガスが簡単に株式を手放し、勝負がついた。いまや「ハリス・ブラザース」は「マジコム支配下」に入り、功績のあったシェリルは上級副社長に昇格した。すべてが旨く言ったように見えたが落とし穴があった。
鍵はスチュアート・アベンド訴訟だった。ヒッチコックが映画化した「裏窓」は、もとはコーネル・ウールリッチの短編で映画製作に際し、ヒッチコック・スチュアート側はその著作権を得ている。ところがウールリッチが死んだ後、遺族が自分たちは著作権を売っていない、と控訴、勝ったのである。
スタン・ウイストンは唯一ジェイク・ハリスの遺産を受け継いでいる。するともし、スタンが死ぬとその相続人は熊のデニーの商標権を要求できるのではないか!スタンは子はない。しかし死ぬ直前に若い頃ドナーになったことがある、もしその子が発見されればその子に全財産を譲る、としている。新「ハリス・ブラザース」は、ノックスと組んだ人口受精児に膨大な権利金を払わなければいけなくなるのではないか?

米国の巨大企業による巨大企業の買収を廻って蠢く人々の動き、思惑等が良く描かれている。人工受精の問題点、企業買収技術、短期業績主義の問題点など教えられるところも多い。しかし前作「鷲の奢り」に比べると今一歩という感じがする。
まず反健斗等の未発表作品コピーの話が、目的が何なのか、その効果が彼らの努力に見合うものなのか、と考えたとき疑問があるようにみえるところが大きい。作者も力を入れて面白く感じさせようとしているところなのだから、これだけ効果があった、と分かりやすく示してほしかった。