角川文庫
髑髏検校
文化八年元旦、豊漁に賑わう房州白浜で、フラスコ入りの長い書状が鯨の腹から出てて鯨奉行秋月数馬のもとに届けられた。
「私、長崎留学中の鬼頭朱之助は、老爺とつりに出かけたが、嵐に遭遇、見知らぬ島に流れ着いた。そこには御殿造りの目もあやなお屋敷。歓迎を受けるがあやしく立ち上る妖気、やがて彼らは髑髏検校、侍女としてひかえるは松風鈴風と判明した。彼らは百七十年も前に死んだ人間で、検校が骨よせの術を使って骸骨から侍女を再生していた。やがて私たちをおいたまま、時節到来と江戸に向かった。」
鮫津の海岸に向かって建てられたお浜御殿。将軍家斉の子女にして数馬の思い人陽炎姫と朱之助の婚約者琴絵が寂しい日々を送っている。夜歩きの姫を卵塔場で髑髏検校一味が襲い、うなじから血を吸い始める。これを麻布狸穴の鳥居蘭渓が救う。しかしその後一味が逃げ出させた白狼に襲われ、姫はついには彼らの餌食に。
蘭渓次男、縫之助は感じの良い前髪の若侍。数馬の連絡で、根岸備前守より頼まれて、父と共に陽炎姫の事件を追うことになる。しかしお角なる卑しい女を母とする異母兄大膳は蜘蛛を飼うきちがい武士。お角が襲われ、大膳は座敷牢を破って逃げ出した。やがて彼らは二人とも検校の元で動くようになる。
死者がよみがえった検校一味は影がなく、時には蝙蝠に姿を変え、市村座に現れるかと思えば、夜毎江戸市民を襲い、血を吸う。しかし彼らは花葫に弱い。血を吸われたものは死し、陰を失い彼らの手先となる。数馬さえ陽炎姫に冥界に導かれようとする。
しかしついに鳥居蘭渓等が彼らの隠れ家魍魎屋敷を見つけた。あい並ぶ三つの棺。中を開けると美しい吸血鬼、残り二つからが骸骨。彼らは夜活動するが昼間は寝ているのだ。昼間襲われぬために、大膳やお角を自分の仲間に引き入れていたのだ。彼らを退治するには・・・・・。焼き捨てて妄執を払うのみ!
髑髏検校の暴虐無惨な跳梁ぶりが「吸血鬼ドラキュラ」を彷彿とさせる。大衆小説として非常に面白く、ストーリー展開も良く出来ていると感じた。しかしその味は極めて日本的で、後年発表された「本陣殺人事件」などの出発点になっているようにも思える。
神変稲妻車
「いすず、みすずの名笛が同時になるとき、伏金山の地中深く埋められたもくずが共鳴きし、百万両のありかを伝えるという。」
老中田沼山城守意知のごり押しで、ついに信州高遠城主、新宮伊勢守は家宝みすずの笛を献上することにした。しかし新宮家の家老白鷺主水之正の嫡男、大前髪の美少年弦之丞が
蓬莱閣でしずしずと運んできた錦の包みをあけたとき出てきたのはなんと馬の骨!逃げ出すも雁阿弥得意の折鶴呪縛の術に敗れ、とらわれの身となる。
主水之正は盗んだのは相家老斑鳩典膳とよみ、掛け合いに行き、いすずの笛を吹く。典膳一子喬太郎の懐でみすずの笛が共鳴きし、証拠は掴むが倒されてしまう。星の異変ともくずの笛の共鳴きで、新宮家の変事に気付いた筧暁心斎は、弟子の伊那丸を走らせる。
二笛を献じて、田沼に取り入ろうとする喬太郎、邪魔するならず者稲葉丹左、笛の横取りを狙う烏羽玉女人群、そうはさせじと伊奈丸。卍巴の闘いが繰り広げられる。
二笛は、ある時は千尋の谷に落ち、ある時は大鷲に運び去られるなど転々とする。やがて田沼家から新宮家に難題が持ち掛けられる。鏡の城を修理せよ!莫大な費用がかかり貧乏藩には不可能。ただしご先祖がうめた伏金山の財宝が見つかれば別。
そうはさせじ、あの宝は渡してなるものか、烏谷に住み、新宮家に主家を滅ぼされた恨みを忘れぬ齢二百歳の妖姫烏羽姫。大団円は烏谷攻略で盛り上がる。
ストーリー展開の速さに驚かされ、登場人物のヴァラエテイに唖然とするばかりである。いずれが敵か味方か分からぬほどに入り乱れ、一読作者は思いつくままに筆を進めているがごとく見える。しかし、烏羽姫一族が滅亡し、伏金山が爆発、鏡の城修理は不可能でお家滅亡と思われたとき、田沼失脚のニュースが入り、ハッピーエンドになる筋立ては押さえるべき物を押さえている心配りに感心する。なんとなく子供のときラジオで聞いた笛吹童子を思い出した。
・血晶根
001219