角川文庫
福井県と石川県の境にある動橋(いぶりはし)川、かって戦い敗れた武将の妻が陵辱の上、素裸にされて投げ込まれた。その怨念が黒い大きな怪魚をうみ、怪魚は時に舟を呑むという。人は呑舟川と呼ぶ。その言い伝えの残る北陸の名家黒須家にある日一人の男がやってきた。男は二十年前に失踪した、当主吉孝の弟で奇行の持ち主、平吉と名乗った。
兄は遺産分与問題があり、弟を複雑な心境で迎えた。調査の結果、弟に間違いないと分かると懐柔策をとり、自分のもとに取り込もうとする。
手切金を密かに渡して婚約者祐子と分かれさせ、郁子をあてがいスパイさせた。平吉が望んでいた航空会社を7億の金を掛けて設立させた。しかし平吉は吉孝の妻真澄と座敷牢で関係した。その上平吉は兄のねらいを知ってしまった。
吉孝を人質にして銀行強盗が民家に立てこもった。平吉はパワーシフトでなぐり込み、兄を救出した。平吉は英雄になったが、兄は平吉が場合によっては自分を殺しても良いと考えて行動した、と確信した。嵐の日に漁船に残された子供を救おうとして、飛び立った平吉の飛行機が墜落、死んだと思われたが生還した。
黒須家恒例の忘年会の日、平吉と真澄は納戸で関係したが、その後真澄は何者かに殺された。平吉は疑われたが釈放された。呑舟の魚を求めて対戦、意識を失った。気がついてみると精神病院に入れられていた。強制入院である。平吉はいまや兄が自分を精神病とし、ゆくゆくはロボトミー手術を行って廃人にしようとしていることを知った。しかし航空会社山根の働きでどうにか脱出した。屋敷に潜り込み、吉孝に会うが、取り押さえられ今度は座敷牢にぶち込まれた。さらにそれも逃げだし吉野警部を人質にヘリで逃げるが、またもヘリが墜落、とうとう最後は絶海の孤島の洞穴に閉じこめられることになった。
しかしそうまでしても吉孝は平吉が怖かった。あいつは呑舟の魚だ。あいつには先祖伝来の反逆者の血が流れている。あいつはいつかおれを殺しに来る。しかも幻影におびえた吉孝は、自分が動橋川の呑舟の魚を退治すると言い出した。孤島では平吉の必至の脱出努力が続く。自分を岩に結びつけている鉄の鎖から逃れるには、足を切ればいい、と気がついた!
作品全体は平吉の復讐談の様子だが、基本的なところに吉孝の狂気がある。殿様の子として大事に育てられ、幼児性を脱却できなかった男の狂気がこの小説の主題がある。
すさまじい作品である。セックスの体位や肛門セックスにまで話が及び、読んでいて少々うんざりするがやめられない。解説(加山みよし)にある「その作品の情念世界のボルテージの高さが、西村作品を支えているのには間違いがない。ともかく西村作品では、正気すら狂気に近づいていってしまうのである。読み手が憑かれたように読むのは、それも当然といえよう。」は良くあたっている。とにかく文章に迫力がある。島を脱出するさい、二羽の大鷹を使うなども奇想天外で度肝をぬく。ただ、女性には勧められないなあ!
・向精神薬と電パチ(222p)
・ ガソリンに佐藤を混ぜる。(328p)
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