光文社文庫
小説のなかに小説がいれこになっている作品と言うと都筑道夫の「三重露出」や、折原一の作品が思い浮かぶがこれもその一つ。
藤枝晴夫は、一時は乱歩に認められながら、途中で書くことをやめた尾西東行の未発表作品「仮面の恋」を古本屋で見つけた。「仮面の恋」は女装の男と男装の女の恋を描いたものでいれこになっている。
藤枝は「仮面の恋」と「尾西東行覚え書き」を参考にし、尾西が筆をおった理由を追求した。尾西と中根重吉なる男が篠田瑠璃なる女性を争ったが、瑠璃が死体で発見された。「仮面の恋」に隠された文をよむと、尾西が犯人であったらしく、尾西はそのため乱歩の不興を買ったようだ。藤枝は調査研究結果と発見した短編を自費出版したいと瓦プロダクションへレターを送った。
藤枝のレターを見た瓦社長の命で、服部健太郎と作家の卵の知香は藤枝に会いに別府湯布院温泉に出かけた。ところが藤枝は崖から落ちて意識不明の重体に陥ってしまった。事故か、他殺か?そして「仮面の恋」の後半部分がなくなっていた。
二人がこれを追求したところ知香の文学仲間中根玲子が、作品は彼女の祖父の中根重吉を非難する作品らしいと考えて、盗み出したものだった。二人は、藤枝が隠した結末部分を合わせ、隠された文「さしたのはわたし。」との文章を見つける。さらに古本屋の主人が実は尾西東行その人であることを発見する。
あくまで人を食った書きぶりで、最後に関係者の名前に隠されたアナグラム、「仮面の恋」に隠されたもう一つの文章「おやまごぜうだんなの」が発見され、読者はまた煙にまかれる。全体アナグラムと文学作品に隠された文章を楽しむ感じの作品。結論はどうもはっきりしない。一心に読み終えて最後にオチを聞くが、まだ読者は謎に包まれているという雰囲気を楽しむ、という作品なのだろうか。