永遠の女囚・新月 木々 高太郎


日本探偵小説全集7

 以下の作品は木々高太郎の比較的晩年の作品。文芸的な味が一方で強く、男の視点に立った女性観を披瀝しているように見える。作品の結末がわかりにくく、読者に「ね、分かるでしょ。」と謎を投げかけた形で終わっているのは、新しい境地といえようか。

永遠の女囚
 雲井家では姉の正子を弁護士の繁之に嫁がせ、次女の桂に期待をかけたが、どうも問題がある。当主と離縁したおかあさんが桂のもとに内緒で転がり込んでくる。親の薦めで婿を取るが結婚式を終えるとさっさと分かれて帰ってきてしまう。正子の夫繁之のもとにいたと思ったらまた駆け落ち、ところがこれも相手を捨ててすぐ戻ってきてしまう。当主雲井九右衛門は小作人との争議で村の若者たちと激しく対立していたが、嵐の晩に何者かに射殺された。現場の状況から桂が逮捕された。桂はあかにかぶれたのだろうか。しかし監獄に訪れた繁之は予想外の桂の自己犠牲の考えを聞かされる。(1938.11 41)

新月
 24才の斐子は55才の細田に嫁いだ。細田は、もちろん再婚で四人の子供の父である。斐子には嫁入前に物集という若い恋人がいた。細田と斐子が結婚して2年後箱根に旅行に行き、夜中に湖の中にボートをこぎ出し、もともと心臓弁膜症の斐子が泳ぎだした。しかし突然恐怖の色を顔に浮かべ湖底に沈んでしまった。その両親からの依頼で「私たちは殺人と思っている。何とか慰謝料を取ってもらえまいか。」
 その後物集が現場を目撃しているなど細田に不利な点も出るが、結局5万円の要求を1万円で示談にすることにした。ところがしばらくして細田氏から私に「両親とは全く別の考えから、あるいは私が斐子を殺したのではないかと自分で打たれる用になったのです。」と残りの4万円を申し出た。これを読めば私の気持ちが分かる、と示された小品から判明したことは・・・・。(1946.5 49)

月蝕
 新月の結論は注意して読めば、妻の昔の恋人の出現で嫉妬に駆られた細田が、偶然を利用して愛する妻を殺すことによって独占しようとした、と分かるのだが、それでもわかりにくいという読者の声に答える形で書かれた作品。検察の有罪かどうかという視点から見れば泳ぎを知らず、ボートも下手な細田が殺人を犯せる訳がない。しかし細田が「あるいは自分が殺したかもしれない。」と考えるのは、倫理上の問題について、本人が厳しく考える故である、としている。(1946.11 49)

バラのトゲ
被害者が犯人を指摘しているのに、指摘された犯人には動かす事の出来ないようなアリバイがある、という変わった事件である。
哲学者の石田と離婚話が持ち上がっていた喜代子が、実家に帰る途中刺され「やられたの、あの石田でした。」と言う言葉を残して絶命した。ところがその時間夫の石田は、学生たちと一緒におり、十分なアリバイがあるように思われた。石田家は用事が無ければ女中部屋に引っ込んでいるばあやと寝たきりの母親、それに石田の三人住まい。取調中に石田が精神に異常を来してきた。
 この問題を大心地教授が学生と石田の書いた断片的な手記をもとにパネルデイスカッションを行いながら解いて行く。喜代子がバラのトゲをひとつひとつ集めている様が描かれている。一体何をあらわしているのか。刺傷の状況から犯人は左利きとわかり、「石田です。」の意味の取りようによって犯人が分かるのだが・・・。(1955.9 58)
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