銀閣寺の惨劇        吉村 達也


徳間文庫

金閣寺の惨劇で養女に出された鶴子は阿部麻里亜と名をかえ、評論家南雲圭一郎の愛人となっている。結婚を迫られているが、南雲を恐れ、自由を確保したい麻里亜は同意しない。その事が、南雲のプライドを痛く傷つけている。
南雲は女を次々に誘い、しばらくすると捨ててしまうプレイボーイ。阿部麻里亜に結婚を申し込む一方港書房の美人編集員鈴木淳子に「君は次だよ。」と愛をささやいている。その鈴木が銀閣寺山門前で全身アルミフォイルで包まれ、殺されていた。
南雲の周囲には過去にも怪しい事件が起きている。ロスアンゼルスの録音スタジオで恋敵が頭を撃ちぬかれて死んだ事件である。部屋は隣の副調整室とガラスを隔てていたが、スタジオ側から鍵がかけられ完全密室。死体の側には凶器の銃が転がり、被害者の手には硝煙反応。どこから見ても自殺に見えるが、状況がそうでなかったことも事実。
この二つの事件に金閣寺の惨劇同様、志垣警部等の要請を受け推理作家朝比奈耕作が挑戦する。しかしこちらの作品ではなぞ解き同様、南雲の著作等を通じて語られる作者、あるいは戦後の知識人のものの見方、その問題点が語られているところが興味を引く。
たとえば最初の「意地悪な日本人」
・ 日本人は日本人が大嫌い=海外に行くと良く分かる。
・ 英語コンプレックスは、日本人の日本人嫌いに影響しているか=たとえば宮沢さんに見る接し方の落差
・ 面識のない人とは言葉を交わさないこれ、日本人の常識
・ 論理性に欠ける日本人の会話がじつは日米摩擦の最大の原因=反対の本質的根拠を示さず、憲法違反などと騒ぐ
・ 「論理的」であることは「倫理的」でない。それが日本人のモラル=理屈っぽい
・ 日本語の世界だけで通用する横柄な日本人=ウエイターへの口のききかた
・ 「京の茶漬け」とクリントン=召し上がれ、と言われて食べてなぜ悪い。
・ わからない日本人を、もっとわかりにくくする能面症候群
・ 新聞漫画に見る能面症候群=人しれぬ範囲でにやりとする程度尊重
・ 夜更けの終着駅で見かけた日本人的な光景=眠りほうけた若者に「誰かおこしてあげればいいのにねえ。」と言いながら立ち去る中年女性二人。
もっともらしい意見がずらり。最後に南雲が朝比奈に「それを目撃した先生は、結局、眠りこけていた青年を起してあげなかったんですか。」にぎゃふんとするところが傑作。また面識のない云々は90pの「現代日本人のやらしい部分と言うのは、東京人が作り上げてきたものですねん。…ニューヨークが人種のるつぼなら、東京は「田舎もん」のるつぼですわな。」に繋がって行く。

さてお話の方は阿部麻里亜が南雲の友人駒田から、南雲の過去を知らされ、南雲のマンションで恐怖におののくところに、南雲が戻ってくる。そしてまもなく救援するそぶりで駒田が到着するのだが、実は彼も悪党だった。阿部は絶体絶命!しかしわれらが朝比奈耕作が警部と共にマンションにちかずく。
トリックの方はさほどの事はない。鈴木暗殺事件はアリバイだけの問題で南雲・駒田の共同犯行。アルミ箔で巻いたのは発覚したとき、精神異常で逃げるための保険。
面白いのは録音スタジオ殺人。被害者は渡されたS&Wについて外人に「Is*nt it loaded?」と聞く。外人は「Of course, yes!」と答えるのだが、日本語に訳すと「弾は入っていないか。」「もちろん、yesだ。」。被害者はyesを取り違え、入っていないと確信してしまう。そして副調整室から「彼女が来るぞ。自殺するとみせて驚かしてやれ。その銃で自分の頭を撃ってみろ!」などとそそのかされ、その気になってしまいました、という。
他に録音メッセージを暗証番号さえ知っていれば他人が聞くことが出来る、と言うトリック、石油ストーブの給油タンクにガソリンを入れたらどうなるか等が面白かった。
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