偶人館の殺人       高橋 克彦


祥伝社ノンポシェット

人里離れた偶人館、招待された人々はそこがどこでさえ分からない。「あの人よ」夫人は側にいる男の袖を掴んだ。丸時計の真下に人影が現れた。見る間もなく人影は躊躇なく屋根から足をだした。人影が宙に浮き、足を交互に動かした。「ああっ」突然空から絶叫が発せられた。激しい水音が、ほとんど同時にした。翌日館の主人の遺体が池から引き揚げられた。露台で夫人が気を失った。

この物語は映画雑誌記者らしい池上佐和子が、半年後に行うからくり展のために、ハーフで国際的なデザイナー、妙にことわざ好きの矢的遙に相談するところから始まる。居酒屋達磨の雄二、良美兄妹、パブの主人田島、大学教授の神楽英良、その妻由乃などが次々と紹介され、合間に茶汲人形、自動噴水などの古来有名なからくりが紹介される。また神楽研究室の多野百合亜の兄露麻夫はロックバンドで有名だが、その彼女は希理子である。希理子の父は加島大治で富豪にして有名なからくり人形収集家、その妻はめぐみ。しかし加島は女優の浮田美洋という愛人を持っている。
加島にからくり天出品を依頼した席で、露麻夫のブランデーに毒が入れられていたとが覚したあたりから事件が始まる。収蔵室にある筆者人形に隠されていた脅迫文「べんきちはゆるさないぞ」を見て、加島のおびえる姿に矢的は奇異なものを感じる。べんきちとはからくり師大野弁吉のことで、120年前も前に死んでいる。彼は幻灯器などを発明した天才で、加賀藩御用商人でのちに罪を受けて殺された銭屋五兵衛のもとに身を寄せていた。そしてその五兵衛は莫大な財産を隠していたという。
やがて希理子が仕組まれたらしい自動車事故で死に、その仕掛けに使われた玩具から「ぐうじんかんをわすれるな」との第二の脅迫文らしきものが発見される。神楽がめぐみと大学時代の仲間だったことから事件が次第に見えてくる。加島の妻めぐみの前の亭主、秋武は、天涯孤独の男で宮城県の山奥が実家で偶人館といった。手品をしているとき、事故に遭い、30年前に亡くなったという。
矢的は新聞記事を読み直し、冒頭の事件に突き当たる。彼は偶人館には五兵衛の遺産が隠されているのではないか、30年前、それをかぎつけた加島が秋武の妻を盗り、さらに秋武をトリックで殺したのではないかと考えた。佐和子、矢島等とともに彼は宮城の山奥偶然人館をめざして進む。しかし加島もそれに気がついていた。次々と殺人事件が起こるが、事件はいよいよ大団円を迎える。

最初の空中遊泳から落下するトリックは、なんとなく江戸川乱歩の「化人幻戯」を彷彿とさせる。別荘から海岸を見ていると崖の上から男が落ちていった、やがて男の死体が発見された、しかし落ちたのは実はマネキンでアリバイ作りに見せたのである。
からくり人形の話、銭屋五兵衛の話は非常に面白いと思った。しかし事件の動機、話の展開は少し安直な気がした。また探偵がどうして、どうしてと悩むところが少なく、結果にも意外性が少ないことが残念だった。
011002