灰の迷宮        島田 荘司


光文社文庫

昭和62年2月12日、新宿Kデパート前バスターミナル、前後部のドアを開けたままで発車待ちをしていたバスに男が乗り込んできて、ポリ容器のガソリンを床に撒き始めた。乗客数人が前部ドアから先を争って脱出し、そのうちの一人がタクシーにはねられて亡くなった。男は鹿児島のN証券株式会社営業課長佐々木徳郎と判明した。彼は息子の大学受験についてきたのだが、突然姿を消していたのだ。男の遺留品は息子の受験道具の詰まったカバンが一つ。この事件を吉敷竹史が追うことになった。
佐々木の所持していた新聞記事切り抜きから吉敷は60年8月25日にTPホテルで墜落死体が発見された事件を思い出した。男も同じ新聞記事をもっていたのだ。苦心の末、男は佐々木と同郷の壷井合三と判明した。壷井殺しは佐々木のようだが、動機が不明だ。鹿児島署に問い合わせた所、前年ヤクザの抗争があり、地元のM組は60人の死者を出して壊滅していること、同じ月の19日、降灰のため佐々木家の天井が落ちていること等が判明した。
逃走していた放火犯が捕まったが彼からとんでもない証言が飛び出した。バスに放火してくれと頼んだのは佐々木自身である!佐々木が懇意にしていた女を追って吉敷は鹿児島へとんだ!鹿児島署の留井の助けで捜査が始める。壺井と佐々木の接点にバー「シャトーネ」の女給茂野恵美がいた。彼女は留井にかたくなだったが、吉敷に惚れて協力しだしたあたりから、個々の事象が急につながりだし、事件の全貌が見えてきた!しかし茂野は東京のマンションから落下、「みんなあいつにやられた。」の言葉を残して死んだ。

他の作品と同様、トリックが現実には起こりそうにないが実に面白い。佐々木の息子浩一は試験、試験と攻めたてる厳しい父を憎んだ。たまたま暴力団の抗争があり、浩一は一発の銃弾を拾った。パイプの中に入れ、それを万力で固定し、父の部屋をねらってセットした。ハンマーで尻をたたけば銃弾が発射されると考えたのである。しかし実行に移す勇気は無かったのだが、灰の重みで屋根が抜けたとき、柱か何かがあたって発射されてしまった。銃弾は父の部屋の床に突き刺さったのだが、その時たまたま部屋の外に壺井が来ていた。佐々木は壺井が撃ったものと勘違いし、こいつを殺さなければならないと考えてしまった、と言うのだから唖然とする。
バス放火事件も傑作だ。実は暴力団抗争のおり、壺井はニセ札を作らされていた。それをカバンに入れて持ち歩いていたが、佐々木の手に渡った。金に困っていた佐々木はそれをバスの中で燃やし、保険金を詐欺しようとした。ところが頼んだ浮浪者がバスに乗り込んだとき、あわてて逃げ出したため、通りかかった浩一の乗るタクシーにはねられてしまった。浩一はぼんやりバスの中に入ったが、父が大事そうにしていたカバンが気になり自分のカバンと交換して現場を立ち去った!なんと、まあ!「奇想、天を動かす」という作品があるが、あちらと良い勝負の偶然、荒唐無稽ぶり。しかし面白いからそれで良いとするか。吉敷に心をよせる茂野の描き方もなかなか味わいがある。
010616