筺の中の失楽 竹本 健治


講談社ノベルス

読者に論理的な謎解きの過程を徹底的に楽しませることが主題で、動機付けや登場者の心情は大幅に省略されている。書き進めている小説と現実が錯綜している点も、話を理解しにくくしている。「虚無への貢物」のように、ありとあらゆる要素を詰め込んだ推理のおもちゃ箱といった感じの作品。謎へのしつこいくらいなんども繰り返される論理的アプローチ、「黒死館殺人事件」のような物理学もどきの蘊蓄もなかなかのもので、その辺がマニア好みと言われるゆえんなのだろう。
話の筋は、大学生を中心にした推理小説研究会で一卵性双生児の一人ナイルズが「いかにして密室は作られたか」を書き始める。その進行にあわせて密室で黒魔術師曳間が死体で発見され、真沼や影山が疑われ失踪する。発見者の倉野は恋のもつれからもう一人の一卵性双生児ホランドを殺してしまう。彼は、最初の死を実は自殺だったのだが、他殺と断定した関係上、最後まで他殺と主張する。その倉野も密室でホランド殺しの復讐を受けて、甲斐に殺されることに・・・。
関係者にはいずれもアリバイが存在する。そこで、メンバーはいろいろ蘊蓄を傾けたり、動機も見あたらないのでホランド、ナイルズには実は兄がいただの、グループのリーダー雛子の叔母杏子に精白の姉がいたなどを見つけだすなどして、苦し紛れの理論を展開するところが面白い。
ほかに推理較べのための十戒やグループを犯人と被害者に分けるアイデアなどが興味をひく。

・推理較べのための十戒
1トリックは古今東西の小説に使用されなかった全く新しいものであること
2解決は万人を納得させるだけの説得力のあるもの
3解決にはおもしろさがないといけない
4犯行は殺人者が練りに練ったものであること。
5共犯者はいない
6煩瑣なアリバイトリックは不可
7トリックだけでなく犯行に至らしめた動機も今までにない新しいものであること
8動機には十分な深刻さがあるという事
9解決が必ずある暗示を含んでいること
10犯行は連続殺人でなければならぬ。(96pー殺人者への荊冠)
・ブラックホール(120p)
・プルキニエ現象(159p)
・アルカロイド(エクゴニン)の解説(181p)
・カタストロフィーの理論(235p)
・九星術解説(264p)
・グループ犯罪において全体が騙す者と騙される者に分かれるという考え方。・・・・推理小説で被害者以外全員が犯人(オリエント急行殺人事件、そして誰かいなくなった(夏樹))
の考えは多いが、グループを二つに分ける考えにはびっくり。(272p)
・合い鍵をその場で作る(343p)
・覗き穴に絵を張りつける。・・・片目で遠近感なし。(394p)
・ラプラスの理論・・・・宇宙に起こる森羅万象は、ことごとく微粒子と微粒子の相互作用によって成り立っているのである限り・・・・その微粒子の状態が正確に掌握できてさえいれば、その運動の仕方はたった一通りしかないはずだから、どこまでもその行動が予測できる。(418p)
・精神なんて、脳内の化学変化と電気的作用の、ちょいと複雑な集積に過ぎないんだと。(433p)
・輸血の話(462p)