ハヤカワ文庫
「だがピークに近づく頂稜に抜け出した解き、そんな希望はいともあっさり吹き飛ばされた。この高度で吹くはずの無いジェット気流が、爆音をともなって頂稜をこえていたのだ。・・・・撤退を決意した。・・・・事故は、下部斜面にたどり着いたときに発生した。斜面を下降中の滝沢のすぐ横を、突然黒いものが滑落していった。・・・・滑落した物体を追って、赤い霧が通り過ぎていったのだ。鮮やかな色だった。・・・・滑落した仲間が、血を噴出させながらすぐ横を通過したのだ。」
アルピニスト滝沢育夫は今回も仲間を失って、ヒマラヤから帰国、恋人の君子にも「あなたの帰りを待つだけの生活なんかたえられない。」と宣言され、もうやめようと考えた。しかし林と言う見知らぬ男から「マナスル登頂をめざす登山隊の隊長になってくれ。さもなければ・・・・。」と脅迫されやむなく仕事を請け負った。
しかしカトマンドウに集結した登山隊はどこか不自然だった。山の専門家はツエリンとニマの二人だけ、あとはカムパ(チベット人)に見えた。さらに彼らは全員銃で武装しているらしい。林が明かしたところによれば「国境は今チベット人亡命者グループがイシラマ隊とテムジン隊に分かれて対立している。我々はテムジン隊の別働隊でイシラマ隊を中国から武器が届けられる以前に殲滅することだ。」滝沢はツエリン等とネパールから中国への国境越えのルート作りをさせられた。しかしその下降過程で多くの死者を出した。そしてカムパ達の反乱・・・・
林は逃亡した。しかしカムパに捕らえられた林の側近クマールによれば「ネパールから中国へ侵入という実績を作らせ、中国軍がネパール領に入り込みテムジン隊、イシラマ隊双方を殲滅する口実を作ることだ。この登山隊は証拠を消すために全員が消される運命にある!」中国軍が雪山を越えて襲ってきた!
次々とカムパ達が倒される中、滝沢はニマと共に必死の逃亡をはかる。ようようにしてネパール側に戻ったとき、侵入してきた中国軍を見かけた。なんと将校の服をきて悠然としている林がいるではないか!
チベット独立運動に手を焼く中国当局、山間部の貧しい小国として、なんとか中立を保って独立を維持しようとするネパールの事情の説明が的確に成されている。それを背景に困難なヒマラヤのルート作り、必死の逃亡劇、次々と起こるアクシデント、それらの描写が素晴らしい。実際の経験に裏打ちされているからなのだろう。山岳冒険小説の傑作!
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