新潮文庫
精神病患者が傷害事件を起こすと、弁護人は「精神を犯されていたから無罪」を主張する一方世間は「なぜ、そういう人間は病院に閉じこめておかない?」と主張する。しかし大半の精神病患者も人間であり、自由を求めている。そう言った患者の世界を妙なセンチメンタリズムを交えず公正な目で描ききっているところが魅力だ。
病院は丘陵の東斜面に敷地をもち、病院へと続く坂は、片側に繁る楠と椎の木のせいで昼でも薄暗さを保っている。病院の看板には《精神病院》の文字はなかった。だが、誰もが四王子病院のことは知っていた。
病院内の演芸会が開かれ、チュウさんが脚本を書き、クロちゃんが主演を演じた。ところがそのクロちゃんが失踪し、やがて山の中で死体で見つかった。クロちゃんは工業高校を出た後、就職先で旨く行かず、家に戻っていたが精神に異常を起こしたのか母親を殺し、家に火をつけてこの病院に連れてこられた。何度も脱走を試みた後の今回の自殺劇だった。
重宗が島崎さんを陵辱した。それを昭八さんが写真に撮っていた。写真はチュウさんに渡された。チュウさんは秀丸さんに相談した。
重宗は本来は刑務所においておかねばならぬ人間である。しかし警察は精神病と分かると精神病院に運び込み、後は知らん顔。受け取った病院こそ迷惑で治療をしたいが本人にその意志はなし、事故を起こしてはいけないが看護士は脅され、看護婦の言うことは聞かない。島崎さんはまだ中学生で父親に犯され、その精神的ショックから登校拒否になり、この病院で治療を受ける一方、陶芸教室に通っていたのである。
チュウさんは三十年も前に、母親の為に土地と家を買ってやったし家作も持っていた。しかし精神に変調を来したとき父親に暴行を働きこの病院に入れられた。今は帰ってもおかしくないのだが、母親の死後チュウさんの土地に住み着いた妹夫婦が反対している。秀丸さんの母親は、戦争にでた夫が帰って来なかったためある子連れの男と関係ができた。夫が戻ってきたとき母親は取り合わず、やがて夫は自殺した。秀丸さんは、母親とその内縁の夫など4人を殺した。死刑になったがどうした訳か絞首刑で死なず、放り出された。それからしばらくしてこの病院に放り込まれた。
秀丸さんはチュウさんに重宗を呼び出させ、隠していたナイフで刺し殺して捕まった。チュウさんは秀丸さんの裁判に呼ばれた。「私が殺そうと思っていたが、彼に先を越された。」と証言した。秀丸さんは裁判で精神病院に来なくなった島崎さんにであった。今は立ち直り看護婦になるべく勉強している。
秀丸さんの過去を知っているだけにチュウさんたちは秀丸さんが刑務所で自殺するのではにかと恐れる。
「秀丸さん、決して死んじゃいかんよ、チュウさんは青い空を見上げて心の中で叫んだ」
事件が3分の2くらいまで起こらず、やや退屈な感じを与える。しかし作者の精神病患者に対する暖かい見方が救いになっている。そして作品を通して現代の精神病院の問題点を読者に突きつけている。
010703