変調二人羽織         連城 三紀彦


ハルキ文庫

 処女作を含む短編集だが、従来の事件・・・推理・・・解決というスタイルとは随分かけ離れていることに気付く。事件の記述自体に仕掛けがあったり、あるいはいきなり解決編から持っていったりしている。それでいて話がトリックのみに走らず、それぞれにエピソード、時代、雰囲気を描き出している。作者のうまさに脱帽。
変調二人羽織
 大晦日の晩東京の町にどこからともなく現れた丹頂鶴がいずこかに飛び去って行くという出だしがまずすばらしい。話は悪の限りを尽くした伊呂八亭破鶴が自分を殺したいくらい憎んでいるやつ五人を呼んで最後の演目・・・・それは奇妙な二人羽織だった。ところが最後に一瞬電気が消え闇が訪れた。そして明るさが戻ったとき、破鶴は心臓を一突きにされて絶命していた。当局は自殺説に傾くが亀山は他殺と考え、いろいろな推理をたてる。羽織の中に隠れて手の役をやっていた愛弟子の小鶴か、あるいは衣装を用意したバーのマダムクララが、心臓のあたりに燐光を塗っておき、そこをめがけて刺したのではないか、凶器のガラスのかんざしが無くなったが、あれは丹頂鶴に飲み込ませたのではないかなどなど・・・。結論は平凡だが、推理の過程は超一級のおもしろさだ。
ある東京の扉
 咲島のもとに薬をやっているらしい男が原稿を持ち込んだ。東京を密室にした奇想天外な推理小説だ、買わないか。ストライキで電車もバスも動かない、タクシーと自家用車は交通渋滞で動けない、そういう状況の下、犯人は東京にいた。殺人は埼玉で起こった。アリバイは崩せるか。
六花の印
 明治38年、新橋駅で弥吉は恋人に振られたお嬢さんの島を力車に乗せる。島はピストルを持っており今にも自殺しそうな雰囲気。そして銃声一発。克代なる女性に頼まれた運転手の沼田はピストルを持つ善岡をのせて車を走らせる。善岡も今にも自殺しそうな雰囲気。そして銃声一発。二つの話が並行して進む。読者はどう関係するのか悩んでしまうが、そこが作者のうまいところ。二つの事件が犯人が被害者になりすまし、死にたいそぶりをみせ、一瞬の隙をついて銃声一発、死体を乗せた車(人力車)と入れ替える手口という点で共通しているのだ。
消えた新幹線
 葉島貫一は娘の美弥を通じ、星崎なる有力者から「三日前にこだま279号に乗っていたことを証明してほしいと頼まれる。」と頼み込まれる。詳しく聞くと彼は佐伯なる秘書と一緒だったが、酒を飲んでおり、三島駅で279号のアナウンスを聞いた以外、あまり覚えていない、気がついたら目的地の静岡だったという。もし星崎が東京から静岡でなく静岡から東京に向かい、二つの列車が交叉する三島で東京発に乗り換えたとしたら・・・・。それにしても村芝居の一座を出すなど話のもって行き方が実にうまい。
メビウスの輪
 叙述トリック。「きのうの晩、あなた、わたしを殺そうとしなかったかしら?」とショッキングなでだし。妻は有名女優、わたしはスランプでノイローゼ気味。やがて彼女は首を絞められた跡などを示し、露骨にわたしを恐れるようになる。そして寝室は分離され、わたしは寝る前にベロナールを飲むことを強要されるようになる。それが習慣になるが、瓶の中の一粒だけが毒薬。いつ飲むことになるのか。しかし元々こんな状況を考え、妻に最初の台詞をしゃべるようにし向けたのは・・・。
依子の日記
 叙述トリック。依子の日記とあるから戦後長野の山奥に引退した作家滝内竣太郎の妻依子の日記と思ってしまうが・・・。長野に引っ込んだ夫妻の元に東京から辻井薫なる出版社の女性がやってきた。彼女は最初好感が持てたが、やがて夫の過去の作品が盗作である、私が結婚後一度間違いを犯したなどと、強請はじめ、私たちを支配するようになった。私たちはついに彼女を殺害し、夫が死体を山の中に埋めた。しかし夫は彼女が忘れられぬ様子で、夜中に後をつけると死体を埋めたあたりでぼんやりしている。夫の愛していたのはやはり、あの女辻井薫だ。そして真実を知っているらしい村木の脅迫電話・・・・。日記が実は辻井薫が竣太郎と殺害した依子の日記と、自分の日記を合成して作ったものであるところがミソ。
白い花
 私は書家だが、骨折して動けぬ身。三上瑤子は私の世話を本当によく見てくれる。ただ彼女は家庭的には暴力亭主に悩んでいるらしく痣を作ってやってきたときもあった。そんな瑤子の夫が自宅で絞殺された。殺害時刻に瑤子は私の側にいたから、犯人であるわけは無いのだが・・・。庭の紫陽花の元に咲いている吸葛(すいかづら)の花は、一日だけ、白い花をつけるが過ぎると黄色くなって行く。今日の花は不思議に黄色い。
・私が眠っていた闇の中で、一日だけ白い花を咲かせていたんだね。(317p)
密やかな喪服
 「・・・喪服を用意しておかないと・・・」三十年連れ添った女房の不思議な一言。誰のための喪服なのだ。寝ているとき不意に頭上から青銅の壺が落ちてきて死ぬところだった。駅ホームで不意に押された。妻は私を殺そうとしている!しかし息子が事故で瀕死の重傷、そして病院で死んだ。しかし死んだのではなく妻に殺された疑いも・・・。一体妻は何の目的でこんな事をするのだろうか。
黒髪
 これも見事な叙述トリック。私を挟んだ病身の妻と愛人の壮絶な戦い。男は愛人から奥さんが嫉妬する様だったら、この薬を飲ませて、と白い包みを渡される。愛人は妻を殺そうとしている!しかしその狭間にあって、男は妻を殺してしまった。そして十五年経って、愛人との再会、妻を忘れられぬ男は白い包みの薬を愛人の飲み物に混入し、飲ませる。しかし最初に殺意を抱いたのは、妻か、愛人か?
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