新潮文庫
返事はいらない
主人公の千賀子を刑事が訪問するシーンから、千賀子の回想と今の話を交互に織り交ぜながら話が進む。千賀子は恋人の神崎に「主体性のない君は飽きた。」と捨てられ、飛び降り自殺を考えるが、大京昭和銀行の窓際族森永夫妻に助けられる。「CD機で用いるカードは、打ち込まれている暗証番号と本人が打ち込んだ番号の一致をチェックするだけでホストコンピュータに連動していないことに目をつけ、狂言誘拐劇を起こし、身代金をいくつかの口座に分けて振り込ませ、偽造カードにより引き出す。」という夫妻の計画に加わった。
ドルネシアにようこそ
速記士を目指している伸治は、六本木駅の掲示板にいたずらで「ドルネシアで待つ。」という伝言を書き続ける。ところがある時から「本当に待ってくれるの。」などの返事が来るようになった。たくましい想像を働かせるが、曲折の後面会した返事をくれた娘はカード破産者だった。
言わずにおいて
長崎聡美は、課長と大喧嘩をし、もうやめるしかないととぼとぼ歩いていた。突然前方から車が「あいつだ!やっと見つけた!」の叫びと共につっこんできて、脇の電柱に激突・炎上、乗っていた芦原夫妻は黒こげになって死んでしまった。全く知らぬ妻で、事件を追ってゆくと水田なる女性と間違えられたらしいことが分かった。しかしそこには芦原の遺書「私は水田に金を持ち逃げされ、事業に失敗した。水田を見つけだし殺してしまった。妻の手前もあって、似ているあなたを利用して心中自殺します。」
聞こえてますか
父母がおばあちゃんと折り合いが悪く、中古の家を買って引っ越した。息子の勉が古い電話機の裏を開けると盗聴器がついていた。前の住人は特高に追いかけられたこともあるという三井というおじいさん。何の目的に誰が仕掛けたのだろうか。実はおじいちゃん自身がいずれは息子の家につけてやろうかと、隣の学生に頼んでつけてもらった物だった。
裏切らないで
大浦道恵が歩道橋から転落死した事件は最初自殺と考えられた。彼女は流行に敏感、派手好きで、カードで金を使いまくり、困ると実家に尻を拭わせるような女性だった。しかし、隣室のもう若さの峠を越えた浅田陽子を張っていた刑事はセーターを返しに来たところで逮捕した。髪の毛の型、訪問時の応対、そんな小さな事が証拠になった。若い大浦に日頃から嫉妬し、ふとしたことでオバンと呼ばれ、陽子は切れたのだった。
・地方から見れば、夢が実り富が待ち華やかな暮らしが約束されている東京があるのだろう。だがそれは、しょせん虚像だ。・・・・そしてつかの間でもそこの住人になるためには、若くなければならない。歳を重ねたら、この都にいられなくなるのだ。(231P)
私はついていない
浪費癖の姉が「婚約者の恩師が出てくるので会わなければならないが、同僚OLに借金のカタに盗られてしまった。」と相談に来る。仕方なく金庫にあった母の結婚指輪を持ち出すが、恩師と称する女性は「この指輪は偽物!」しかし金を都合して同僚OLを訪問した僕は、すべて同僚OLが姉憎さで仕組んだ芝居と見破る。
(事件とその原因)
宮部の作品は遺産相続、復讐など古典的テーマにこだわらず、今日的テーマをうまく取り入れて、事件を引き起こしている。また導入部の巧みさに感心している。そこでそれらを最近読んだ作品から抜き出してみた。
我らが隣人の犯罪・・・騒音公害、隠し預金
導入・・・アパートの隣の犬がうるさい
この子誰の子・・・人工授精
導入・・・雨の日、僕が留守番しているときに赤ん坊を連れた女が飛び込む
サボテンの花・・・・テレパシー交信
祝・殺人・・・・素封家の娘と結婚するために
おたすけぶち・・・過疎問題対策
導入・・・旅先で曼珠沙華で染めた赤いハンカチの発見
六月は名ばかりの月・・・・遺産略取とぬれぎぬ着せ
導入・・・教祖の本販売から依頼者の登場
黙って逝った・・・・犯罪の証拠となる写真の入った本の自費出版
導入・・・父親の死と本棚の自費出版本の発見
詫びない年月・・・・昔の犯罪と反省
導入・・・幽霊が出る評判
うそつき喇叭・・・いじめ問題と絶対君主たる教師
導入・・・腹をすかせた万引き少年登場
淋しい狩人・・・作家志望青年狂気の殺人
導入・・・淋しい狩人作者遺族の蔵書整理依頼
返事はいらない・・・偽造CDカードを使った身代金の引き出し
導入・・・犯行仲間になった女性の刑事による事情聴取
ドルネシアにようこそ・・・カード破産
導入・・・駅の掲示板のドルネシア勧誘いたずら書きと応答者
裏切らないで・・・女性の若さ喪失へのあせりと嫉妬
導入・・・刑事が若い女性が歩道橋から墜落死したことを知らされる
私はついていない・・・婚約中の女性の見栄と嫉妬とカード社会の問題点
導入・・・婚約指輪を借金の方に取られた、何とかしてくれないかという姉さんの相談