変身             東野 圭吾


講談社NOVELS

凶悪犯の脳が移植され、自分自身が変わって行くというプロットで書いた作品。目立たないが脳死に正面から取り組んだ意欲的作品。
病院のベッドで意識を取り戻した私は、ゆっくりと起こったことを思い出して行く。私の名は成瀬純一、大人しい機械工で画家を夢見、葉村恵を心から愛していた。ところが町の不動産屋に部屋を探しに行ったおり、銃を持った男が侵入、女の子を人質にしようとしたのでかばった。銃声一発意識を失った。
それから私は、交通事故で死んだ関谷時夫という男の脳を、移植されたのだという。経過は良好で退院し、職場復帰を果たす。ところが攻撃的で、酒を飲むとひどく凶暴になる自分を見いだして驚いた。絵も描く気がしなくなっていた。恵も何か遠い存在に感じられた。関谷の家を尋ね、彼の生前の性質を聞くがどうも私の性質と一致しない。移植されたのは他の脳ではなかったのか。
私の変わりように驚いた葉村恵は、故郷に帰っていった。私の元を担当看護婦だった橘直子が心配した様子で、訪れるようになった。しかし私は、ますます凶暴になって行き、職場も配転になった。そんなとき、私は、私を撃った京極と同様、音に敏感になったことに気づいた。あの京極はその後死に、妹の亮子が残っているという。彼女を訪ね、京極が音楽家志望だったことを知った。橘直子の調査も合わせ、私は移植された脳は京極のものであり、その部分が脳全体を支配し始めていることを知った。
私はもう実験材料になるのは嫌だ、との思いで、担当医の堂本や若生の検査を拒否し、直子と私の成瀬純一を取り戻す戦いを開始しようとした。しかし、信頼した直子が、実はデータを集めていた事を知り、怒り狂う。ついに彼女を殺し、死体をバラバラにして奥多摩の山中に捨ててしまう。
死体が発見され、事件が発覚しそうになり、絵を描きながら死のうと旅支度をしていると、恵が戻ってきた。最後の一時で何とか成瀬純一を取り戻そうと、ウイークリーマンションに泊まり込み、私は絵を描こうとする。しかし追っ手は次第にせまってくる・・・・。
・コンピュータが、命題に一対一に対応する答え、つまり正解を導き出すことを基本的な働きとするのに対して、脳は論理的には完全でない大まかなシステムであるという事が出来る。そしてその違いこそが、脳の創造性の原点だといえる。(106P)
・エデイプス・コンプレックス=小児性欲・・・親を異性として見るわけですから、必ずと言っていいほど罪悪感が伴うのです。(222P)