奔馬(豊饒の海2)   三島 由紀夫


新潮文庫

昭和7年松枝清顕のもっとも親しい友達であった本多繁邦は、38歳、今や控訴院判事となっていた。東北の農村の疲弊はなはだしく、血盟団事件、515事件などが起こった年である。院長の代理として神前奉納剣道試合の祝辞をのべた本多は、飯沼勲にであった。彼は右翼団体靖献塾頭だが、かって松枝家の書生であったが、女中のみねと関係して追い出された飯沼茂之の息子だった。本多はふとしたことから勲を松枝清顕の生まれ変わりの証拠を認め愕然とする。
勲は明治初期の太田黒伴雄等の起こした神風連の乱について記述した「神風連神話」に心酔し、昭和の神風連を起こし、腐敗した政治、疲弊した社会を改革しようと考えた。密かに塾生等を中心に同士を募り、堀中尉等にも連絡を取ったり、あるいは洞院宮治典王にお目見えしたりする。「金融産業の大権を、天皇に直属せしめ…。」など当初の目標は大きく、治安攪乱のため変電所を襲い、蔵原武介等金融産業の巨魁を暗殺し、日本銀行を占拠し、自刃して果てる予定だったが、決行日が近づくに連れて脱落者が出た。そのため金融産業巨魁の暗殺に切り替えたが、密告者がでてあえなく計画はついえた。
勲は裁判にかけられるが、世間の目は好意的で、しかも弁護には本多が職を辞してつくことになった。やがて無罪判決…。しかし家に戻った本多は密告者が実は父であり、その父に彼らの蜂起を知らせたのは勲がほのかに恋心を抱いていた女性であることが判明した!彼が目指し、青春の情熱をたぎらせたものは幻にすぎなかったのか?自刃を美しいものとして捕らえる勲の取るべき次の行動は何か?
若者の純粋な行動を描いた、と言うことではあるが、作者はどうやらその行動を賛美しているように見える。それがまた作者の最後につながっているようにも見える。良く書けた作品ではあるが、危険な作品とも考えられた。
・ しかし君の年齢では、感動はすべて危険です。身をのめり込ませるような感動はみな危険です(119p)
・ 純粋とは、花のような観念、薄荷をよくきかしたうがい薬の味のような観念優しい母の胸にすがりつくような観念を、ただちに、血の観念、不正をなぎ倒す刀の観念、袈裟がけに切り下げると同時に飛び散るしぶきの観念、あるいは切腹の観念に結びつけるものだった。(125p)
・ 密告のもっとも深い動機であったもの、すなわち息子が今まさに実現するかも知れなかった血の栄光と壮烈な死に対する、押さえ切れぬ嫉妬を読んでいた…(333p)
020113