滅びの笛          西村 寿行


徳間文庫

夜叉神峠でアベックが、死後間もない二つの白骨死体を見つけた。鼠が食ったのではないか。環境庁鳥獣保護課の沖田克義は、狩猟パトロールデータから、ノスリ、蝮、青大将、山カガシが増え、それが東方に移動していることに奇異を覚えた。農林省林業試験場の理学博士・右川竜造を尋ねると、右川はクマザサの一斉開花で鼠が異常繁殖したのではないか、と述べた。役所に戻った沖田は「生態系が破壊されている、鼠の天敵の狩猟を禁止すべきだ。」と環境庁長官五木修造に直訴するが、「役所のルールを守れ。」と相手にされない。思い余って右川、雑誌記者の曲垣を伴って現地調査を行うと、果たしてクマザサをはむドブネズミの群れに遭遇した!。今度は証拠写真を用意し、クマザサを刈るべきだと上申、曲垣は新聞に発表するが相手にされない。
六月、沖田のもとに分かれた妻広美からの連絡でクマザサが一斉開花したとの報が入った。十一月、ハイカーたちの鼠被害が相次ぎ林野庁に、ようやく鼠害対策本部が出来た。右川も沖田も呼ばれた。右川が鼠群は数億から十数億、村落を襲うだろう、火災が起き、疫病がひろがるだろう、と警告するがまだ本気にしないものがいた。その間に本当に南アルプスの山間の村が襲われた。鼠狩りにいったハンターたちが襲われた。捜索隊が襲われた。中央線特急が襲われ、列車が転覆し、零れた乗客が鼠に食い殺された。
国会で右川は、山間地の村が避難すれば食料がなくなった鼠は甲府盆地に下りてくる、甲府市民を強制避難させ、そこで一大決戦を挑むべきだ、と主張するが対策はおくれがちだ。音響生理学者の要請で超音波による鼠退治を試みるが、右川の予想通り失敗。鼠は勢力をまし、プロパン配管を食いちぎり、各地で火災が発生するが、国道、県道が鼠で埋め尽くされ、消火活動も思うに任せない。韮崎市がほとんど燃え尽くした。
とうとう甲府にも、鼠の大群が押し寄せ、町を破壊し尽くした。鼠のもたらす伝染病が蔓延し始めたが、中でもペストの声がささやかれ対策本部は騒然とした。しかし甲府におかれた対策本部から本部長たちはヘリで逃げ帰ってしまった。無法化した町にはななはんに乗った暴徒が現れ、女たちを襲った。銀行強盗が発生し立てこもった。自衛隊が出動し、殺鼠剤散布、火炎放射器、ナパーム弾などで応戦するが次第に弾が不足。沖田は下水道に逃げ込み、右川は市民と共に鼠を踏み潰して行進するが死の手が着実に近づいてくる。自衛隊は敗れ、甲府市はほとんど壊滅した。鼠の群れは東にむ。その先は東京だ!
東京都はペストの発生を恐れ、山梨県民の東京移動を禁じ、県境は警官と自衛隊で封鎖した。「山梨県民を見捨てる気か。」と群集の東京に向けての行進が始まった。右川等の懸命の説得が始まる。鼠の東京都への行進を止めるには、もはや大量の火器で緑を燃やし尽くすが、水源地である奥多摩湖が汚染されるのもかまわず殺鼠剤を撒くしかない。しかしそんな時右川等は鼠の様子に異変が起きたことに気がついた。

人間が行う自然破壊、それがもたらす生態系の破壊がどんな結果を導くかを考えさせる書と言えよう。作者の動植物に対する切々たる愛が伝わる。特に一方で絶滅種の保護などを訴えながら、銃砲製造業者、一部の愛好家等と癒着して狩猟を許している現状を激しく非難している点が目立つ。他の作品同様、文章にも迫力があり、一気に読ませる。
他人にも一読を薦めたいところだが、沖田と妻の関係などのサイドストーリーや過激な性描写、暴力場面などはここまでしなくてもという気はする。
いくつか疑問、奥多摩湖を汚染させずに殺鼠剤の散布は出来ないものなのだろうか。甲府市全域の強制避難は可能なのではなかったか。なぜ山梨県民は東京にばかり逃れようとするのだろう。他の県に避難しようとしないのだろうか。鼠問題は解決したとして、ペスト問題はその後どうなったのだろう。

・ある公爵が、自分の荘園に押し寄せる小鳥が果樹や樹木を荒らすのに業を煮やし、銃で片端から撃ち殺した。小鳥は寄り付かなくなったが、その翌年に毛虫などの害虫が大発生し、自慢の荘園は枯れ果ててしまった。(20p)
・課長が銃砲関係の人間と飲み歩いているのを知った。課長補佐もそうであった。降車に蟷螂である。(21p)
・ホルモン注射大量投与の危険(38p)
・生みたいだけ子供を産む男女。膨れ上がった人口。人々は山野をつぶすことに狂奔してしまった。自分の権利だけは抜け目なく主張するバラバラの人間が国土を荒廃させてしまったのだ。ゴルフをする権利、ゴルフ場を造る権利、銃を製造する権利、鳥獣を殺して遊ぶ権利。大勢のやることだからと、禁止することの出来ない役所、そして政治家。(206p)
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