ハルキ文庫
トラベルライターの森口美樹は、恩師佐伯重信教授に誘われて、下北半島に民間伝承の調査に行くことになった。雑誌社の先輩倉橋和恵から佐伯教授がとかく問題の多い人であること、スバル心霊教なる新興宗教を主宰する霧村光雲と関係の深い事を知らされる。佐伯と森口は仏ヶ浦に隣接する漁村牛滝で、青森新報の記者野木沢夏男が合流した。
ところがそこであった美人の霊媒吉永幽香子は「邪悪な心を持った者が二人いる。…・三人が死ぬ。心せよ。」と予言する。幽香子は十七年前、東京から来たらしい女性が山中で死体となって発見されたが、その側にいたのだそうだ。霊能力は高く、成田山近くのイタコ平沼ハルに師事したという。
ところが夜遅く別の旅館に向かった佐伯が、途中の地蔵堂で刺殺死体となって見つかった。改めて考えてみると佐伯の森口に対する接し方は妙な所が多かった。民間伝承調査と言いながら、どうも吉永の事だけが関心あるようだったし、夜遅く遠くの旅館まで戻ったところも不思議だ。やがて幽香子が佐伯の師である武田東洋の孫と判明する!その話を聞いた野木沢はスクープだ!と狂気したが、こちらも翌日死体で発見された。
誰が何のために行う殺人なのか、謎が謎を呼んで行く。次第に金儲けのみを目的としたスバル心霊教の内部争いが浮き彫りになって行く。いよいよ森口の依頼を受けて、警察庁宮之原警部が登場!
この作家の作品を読むのは初めてである。オビにトラベル・ミステリーとあるように、観光写真と一緒に読みたくなるような趣で、風景描写が丁寧親切である。扱っている題材も面白く、それなりに良く調べられていると思う。
ただプロットには不自然なものを感じた。民間人(森口)と警察関係者はつるんで捜査にあたるものなのか、焦点は十七年前の事件にもっと絞られるべきではないか、等々。何よりもトリックというものが無く、事件の解明が状況証拠、あるいはストーリー作りで終わっているところが鋭さにかけるように思った。(そのため、読者に考えさせるところが少ない?
そして最後の方はその作り上げたストーリーを補完するように死体が発見される!)
・ 甲乙丙丁戊の十干と子牛寅宇の十二支を組み合わせて年や月を現す。…甲子園球場、戊辰戦争、庚申(かのえさる)講(中国から来たもので道教に基づく。)(29P)
<参考>干支表
1甲子 2乙丑 3丙寅 4丁卯 5戊辰 6己巳 7庚午 8辛未 9壬申 10癸酉
11甲戌 12乙亥 13丙子 14丁丑 15戊寅 16己卯 17庚辰 18辛巳 19壬午 20癸未
21甲申 22乙酉 23丙戌 24丁亥 25戊子 26己丑 27庚寅 28辛卯 29壬辰 30癸巳
31甲午 32乙未 33丙申 34丁酉 35戊戌 36己亥 37庚子 38辛丑 39壬寅 40癸卯
41甲辰 42乙巳 43丙午 44丁未 45戊申 46己酉 47庚戌 48辛亥 49壬子 50癸丑
51甲寅 52乙卯 53丙辰 54丁巳 55戊午 56己未 57庚申 58辛酉 59壬戌 60癸亥
・ 「イタコのように土着の信仰でなくても、仏教に本地垂迹説というのがあるでしょう。仏や菩薩が民衆を救うため、神の姿で現れたのだって言う…。天照大神は大日如来の仮の姿だし、大国主命の大黒さまだったりする…。」(143P)
・ 密教というのはあの世へ行って幸せになるのでは遅い。現世で幸せにしてやる、現世利益思いのまま。そういう教えやろがな。(240P)
010514