封印再度            森 博嗣


講談社文庫

昭和二十四年、日本画家香山風采は自宅の庭にたつ蔵の中で死体となって発見された。蔵は内側から閂が掛けられていた。死因は胸部刺傷によるものだったが、凶器が発見されなかった。かわりにそばに香山家に伝わる家宝の品「天地の瓢」という陶器の壺、「無我の筺」と呼ばれる鍵函があった。死の秘密は誰にも解かれることがなかった。
そしてある日の夕方今度は蔵の中が血の海になり、息子の林水が行方不明になった。蔵の中にはやはりあの「天地の瓢」と「無我の筺」。凶器はやはり発見されない。
ところが死亡推定時刻の頃、車を運転していた林水の娘マリモは大型トラックに遭遇、ハンドルを切り損ねて崖下に転落、気がついた時には、事故時の記憶を喪失し、息子等の介抱を受けていた。しばらくして近くの池の畔でやはり胸部刺傷による林水の死体が発見された。
「天地の瓢」をX線で調べてみると中には金属の鍵が入っていることが分かった。しかし函の中には何もない。鍵は箱を開けるためのものとも思われるが凶器はどこに!
この例によってN大工学部の犀川創平、三年生で創平に思いを寄せる資産家の娘西之園
萌絵等がいどむ。今回は萌絵と創平の恋の鞘当てまで含んでサービス満点?
実は林水は自殺を図って、蔵近くに倒れていたのだが、それを帰宅したマリモが発見、車に乗せ病院にでも行こうとした瞬間、トラックに遭遇したのだ。林水は転落のショックで外に放り出されたが、意識を回復、近くの池まで進んだがそこで息絶えたというのだ。捜査する側が、家に戻る途中事故にあったと考えたが、実は逆方向に進んでいるときに事故にあったとなるところがポイント。しかし事故車の進んだ方向を間違えるなんてずいぶんぬけているなあ!
凶器の方は実は鍵が易融合金でできたいたところがミソ。お湯を入れると融けてしまう。箱の鍵はサーモスタットでできていて、その中の型に融けたものを流し込むと短刀の形になる。林水はそれで自殺をして、もう一度融かし、壺の中に入れると鍵の形になるというのだ。
子供の「いないよ」という発言が実は、「いるのだが死んでいるという意味だ。」と解き明かし推理するところは面白い、と思った。
それにしても壺の中でX線で見ると合金が鍵の形になる仕掛けなどどうやって考えたら良いのだろうか。易融合金を使うと言うアイデアは面白いのだが、現実性にいくらなんでも無理がありすぎるように思った。
陶器の壺に入った鍵を出し入れするだけなら、以下のように考えても良いと思った。
(1) 鍵の握る部分と鍵本体が磁石でくっつく仕掛けになっていて、口から鍵を引っかけて強く引っ張れば鍵本体がはずれるようにした機構。
(2) 壺の模様、あるいはそこ等がねじになっていて開けられる。
(3) 鍵が鉄粉入り特殊合成樹脂でできていて、お湯または油をいれると軟化し、容易に取り出せるようになる。
作品全体として見ると、どうも雰囲気描写や創平と萌絵のロマンスなど余分なものが多すぎ中半だれた感じがする。逆に青春学園小説として考えるには少し無理があるように思う。かって土屋隆夫は推理小説は「事件÷推理=解決」で剰余のものは書くべきでない、としたが、それとはずれる。

易融合金 融点の低い合金の総弥。可融合金ともいう。融点を鉛以下とする場合もあり、スズ以下とする場今もあって。あまり明瞭ではない。最も一般的なものとしては、ビスマス、スズ、鉛、カドミウム、インジウム、亜鉛、アンチモン。水銀などの金属からなる多成分共融混合物付近の組成をもつものがおおい。ローゼ含金およびニュートン合金はBi(50%)、Pb(31%)、Sn(19%)の三成分共融混合物付近の組成をもち、最低95度で融解する。ウッド合金およびリポヴィッツ合金はBi(50%)、Pb(24%)、Sn(14%)、Cd(12%)の四成分共有混合物付近の組成を持ち、最低70度で融解する。インジウムあるいは水銀を含むもはさらに低温で融解する。スプリンクラー、高温高圧用の安全装置、薄肉パイプの曲げ加工用充填材なとに使用される。ヒスマスは凝固の時膨張する特異な性質をもっており、これを約48%以上含む合金は凝固膨張し、これ以下でも凝固収縮はきわめて小さいので、精密鋳造の模型に使用される。(理化学辞典)
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