復讐するは我にあり(上・下) 佐木 隆三


講談社文庫

 題材を西口事件にとり犯罪の発生から、犯人の特定、手配、逃亡と逃亡先における新たな犯罪、逮捕、起訴、裁判、控訴・上告、刑の確定、死刑執行までを一気通関で描いた作品。
 凶悪犯罪が行われるまでには、まず犯人がいて、その生い立ちがあり、周囲の人間と社会があり、など実に多くの要素が絡んでいる。小説と違い、実際の捜査活動ではそれらの泥臭い話を一つ一つ明らかにしながら、あらゆる可能性を考えて、犯人を追いつめて行くわけだが、その過程が省略することなくつぶさに描かれている。それでいて冗長な感じを与えず、なみの小説よりずっと面白く読ませているところが、この作品の素晴らしさだ。
 ただ、榎津の犯罪を犯した時、およびその後の心理状態分析が弱いように感じた。金を詐欺する能力がありながら、なぜあえて殺人に及ぶのか、捕まった時のうすら笑いの元はなんだ、檻の中で彼は反省したのか、などである。
 同時に、殺人のような犯罪を犯す人間は度胸がよい。詐欺をしながら全国を歩くなどと言うのは素晴らしく頭の良い、独創力のあるやつのやることだ。犯人は精神異常などではない、使い方さえ正しければ素晴らしい人間になっていたのではないか、と思った。

(ストーリーにあらわれた事件の順序)
 S38.10.19筑前市で専売公社の集金人と車を運転していた西海運輸運転手の死体が発見された。容疑者として西海運輸の榎津厳が浮かんだ。
 榎津は、ミッションスクールを退学し、詐欺、恐喝などで前科4犯、、畑千代子と結婚、子までもうけながら、巡業ストリッパー吉里幸子と深い仲になり、その雇い主の紹介で西海運輸に就職していた。嘘つきの名人というのは知人の評。容疑はさらに別の女性に与えた千円札から足がつき、確実になった。11.7榎津はテレビの取り込み詐欺を働いた。
 11.8榎津は瀬戸内海宇高連絡船から飛び降りたように見せ掛けたが、警察は偽装であると見破った。11.11榎津はついに全国指名手配となった。そのころ榎津は浜松の貸席あさのに大学教授というふれこみでいつき始めた。11.19しかし金に困り、おかみと娘を絞殺して逐電。11.21榎田の犯行を確認した警察が全国にポスターを配付する。
 12.9榎津が千葉でニセ弁護士に化けて罰金搾取などの詐欺を働き、その足取りが掴めた。12.29豊島区で年老いた弁護士河島恭平の死体が発見された。殺害して金品を奪った後、しばらく代理の者として事務所にとどまる落ち着きぶりだった。S39.1.3榎津が突然逮捕された。鹿児島県玉名市の温泉に弁護士の灘尾と称して逗留していたところ、十歳の女の子に断定され、逮捕されてしまった。持ち歩いていた弁護士バッジや名簿も盗品と判明した。
 1.23取り調べに従順でなく警察を困らせたが、起訴。映画化の話まででるが遺族のことを考慮し、中止となった。12.23裁判となり、第9回公判で弁護人は情状酌量を訴えたが、死刑判決。控訴、上告が行われるも動かない。S44.12.11死刑執行。

・静岡県警が強盗殺人被疑者として全国指名手配すると同時に、警察庁は榎津厳を重要指名被疑者として特別手配することに決定した。この特別手配は、凶悪犯が再犯の恐れありと判断した場合に指定するもので、警察庁長官が一年に一回行う総合手配より重要である。(上194P)
・新聞報道が非常にありがたかった。捜査の状況が詳しく書いてあるので、どこへ行ってもかならず新聞を手に入れた。そのウラをかけばいいのだから、実に助かる。(下106P)

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