創元推理文庫 日本探偵小説全集10
文士宇田川一馬、あやか夫妻のよびかけで、信州N村近くの同宅に、文士、画家などの俗物どもが集合する。主人公の矢代は、妻の京子が一馬の父宇田川多門の妾であったため、辞退するが、強い要請で、私立探偵巨勢博士とともに参加する。
「多門の死んだ妻梶子の死は殺人だ。」などという怪しげな文書が飛び交う中、傍若無人な文士望月王仁が、一晩中あやかの元亭主土居光一が部屋の前でがんばっていたにも関わらず、自室で眠り薬を飲まされた上、刺し殺される。一馬の妹珠緒がモルヒネを飲まされて死ぬ。歌川多門が、モルヒネ入りのプデイングを食べさせられて死ぬ。これは専用の砂糖にモルヒネが混入されていた。多門の遺書によれば、死後遺産を受け取る一人だった妾腹の子加代子が、土居光一にカップを取り替えてもらい紅茶を飲んだところ青酸中毒で死ぬ。かくして多門の相続人は一馬ひとりになってしまった。お由良婆の娘千草が、森の中で首を絞められて死ぬ。彼女と逢い引きを約束していた内海明が、夜、自室で刺されて死ぬ。それでも殺人の嵐は止まらず、女流文学家の宇津木秋子が滝壺で溺死対で見つかる。締めくくりは、一馬とあやかが心中をしたらしいが、一馬だけが青酸中毒で死んだ。
ここで巨勢博士が、事件を解いてみせる。あやかと土居光一は、二人で歌川家の財産を乗っ取ろうと考えた。偽装離婚し、あやかは、一馬の求めに応じ、妻となる。綿密な打ち合わせの上、財産相続のために、多門、加代子、珠緒を、動機をカモフラージュするために望月王仁、宇津木秋子を、毒を仕込むところを見られたために千草を、千草が吹聴したために内海を殺した。最後に心中に見せかけて一馬を殺し、犯罪は完成するはずだったが、二人の不自然な喧嘩を巨勢博士に見破られてしまった。
殺人の動機をカモフラージュするために、関係のない殺人を犯すという例は過去にいくつかある。この作品もその一つだが、財産奪取をねらう二人が協力して犯行を犯している点、彼らの犯行に気づいた者を殺している点などが特徴にになっている。文士たちの会話が、毒があり、生き生きとしていて実にすばらしい。ただ、まあ、財産獲得のために偽装離婚、偽装結婚をし、7人も人を殺すか、挙げ句の果てが自殺する、そんなことがあり得るか、といわれると詰まってしまうけれども・・・・。珍しく読者の犯人あてクイズがついている。