角川文庫
アジア屈指の大歓楽街歌舞伎町には、ようようの民族が巣食っている。中国系だけでもかって力を得ていた台湾マフィア、北京マフィア、上海マフィア、香港マフィア・・・・。
柳偉民に救われて故買屋をやり、中国人社会の中で生き抜いてきた男、劉健一は、日台混血で半々と呼ばれ、どちらの社会からも受け入れられぬ、自分だけが頼りのアウトロー。かって福建系のボス呂、切り裂き魔の白などを倒してきた。今、ここに一年前上海マフィアのボス元成貫の片腕を殺して逃亡していたかっての相棒呉富春が、戻ってきた。
柳に売られた健一は、元に呼び出され、三日以内に富春を連れてこいと脅かされる。そしてそのころ、夏美と呼ばれる謎の女が、健一に仕事を依頼してきた。しかも富春は自分の女が元のもとにいると勘違いし、元の事務所を襲い五人を死傷させてしまった。
やがて夏美が呉の妹で、実は呉のもとを逃げ出してきたことが分かる。富春を元のもとに連れて行っても、自分はその後、元に使われるだけ。元が復権するのも困りもの。いろいろ考えた末、夏美を使いながら、劉は富春に元を殺させ、さらに富春を殺そう、その証人に柳をたてようと画策する。
夏美との間に愛と呼ぶにはあまりに打算的な何かが生じる。富春と元の決闘は、成功したかに見えたが、柳が香港部隊等を使って画策、元は倒れ、富春と健一は命からがら逃げ出す。しかし健一は元の後がまをねらう孫淳に捕らえられ、危機一髪。この間に富春も倒れる。
そして柳、上海ボスの葉が元、富春なき後の処理を話し合う場に、健一は夏美と共に乗り込む・・・・。
読者が共感をおぼえるような生やさしい主人公ではない。健一はどう考えても悪党だ。夏美も負けず劣らずのワル・・・・。ロマンと呼ぶにはほど遠いものしか存在しない。それでいてこの小説に魅力を感じるのは絶妙の人物造形、硬質な文章、徹底的な暴力、セックス描写などであろうか。それとも現代という価値観が多様化し、自己中心主義が蔓延する現代という時代のせいだろうか。
なお、作者は「ブラック・ダリア」のジェームズ・エルロイに影響を受けたという。
・(天安門事件は)大陸から逃げ出してきた連中にとっちゃ今でも語りぐさになるほどの大事件だが・・・おれはことさらな感慨を抱いたことはない。「祖国」は、おれにとっちゃガキどもが目をひん剥いて夢中になっているファミコンソフトの中の架空の王国のような遠い存在だ。(63p)
・おれは日本、中国、台湾のパスポートを持っている。本物は日本のだけで、後は高い金を積んで作らせた偽造パスポートだ。名前もそれぞれ違う。おれはその二つのパスポートを使って国民保険に加入し、外国人登録証と免許を取得している。・(163p)
・ハッキングの威力(183p)
・この世の中にカモる奴とカモられる奴の二通りしかないんだってことさ。(217p)
・おれにとって女は恐竜と同じだった。何時だって飢えていて、食べた側から食べたことを忘れてしまう底なしの胃袋と短絡した思考回路を持っていて、飢えを満たすためならどんなことだってやってのける。(280p)
・血ってのは身体の中を流れているだけじゃそれほど意味のあるものじゃない。意識しなきゃ駄目なんだ。血を意識し、そいつの意味を毎日毎晩考えたことのない奴はどうだって良いんだ。(299p)
・戦争を生き延びた台湾人の中には、今でも日本人に対する憧憬を胸に秘めている奴がいるらしい。日本が去った後にやってきた国民党への憎悪に対する裏返しの感情だ。(497p)
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