イントウルーダー     高嶋 哲夫


文藝春秋

「奈津子です。」午前零時を何分か過ぎた時間に突然電話がなった。松永奈津子とは大学四年の終わりから卒業してしばらくの間、二ヶ月あまりを一緒に暮らした。「あなたの息子が重態です。」息子とはあったことはない。
私は、東洋電子工業副社長羽嶋浩司。東洋電子工業は先輩の大森良夫と組んで二十数年前起したコンピュータ製造会社だが、今では業界一、ニを争っている。私は長谷川等を指導しながらスーパーコンピュータTE2000の開発に余念がない。家庭には美しい妻と娘がいる。
しかし私は取るものもとりあえず駆けつけた。新宿五丁目で白い乗用車に引かれたのだと言う。しかもその時息子松永慎二は酩酊状態!医者は「脳挫傷です。」と言う。彼は私と同じ大学を出てこの業界最大手ユニックスに勤めるずば抜けて優秀なサラリーマンだと言う。しかしやがて遺体から覚醒剤が発見される。警察は「事情聴取をしたい。」と強引だ。
私は改めて息子の部屋を調べに行くと、ガールフレンドと称する宮園理英子に出会う。さらに病院に訪ねてきた慎二の友人で高校数学教師の富山、商社員の木村、コンピュータ・オペレータの小池雅恵等と知り合う。彼らと調査するうち、慎二が二人の男に抱えられるようにしてふらついて歩いていたことが分かり、他殺ではないかと考えるようになる。顧問弁護士の話しで覚醒剤がらみでは暴力団関東若瀬組が動いているらしい。
やがて慎二の持っていた写真等から新潟県日の出町が浮かんできた。小さな村だが関東電力が出力百九十万キロの原子力発電所を建設する話しが持ち上がっていた。現地に行くと原発賛成派と反対派が対立し、揺れているようだ。特に反対派の結城という男はしつこそうだ。私はダンプで襲われ、九死に一生を得る。慎二もこの争いに巻き込まれたのだろうか。
慎二が亡くなった。驚くことにしばらくしてから私のメールに慎司からの伝言がはいっていた。どうやら彼が日の出原発に関する地盤の構造計算書だ。私はフロッピーに写し取ったが、男達に襲われ、奪われた。不思議だ、なぜ私のとる行動がすべて相手に筒抜けなのだろう。以下、原発の地盤構造計算書をめぐって、どんでん返しと暴力と推理の連続…。

良くできている作品とは思うが、人間関係に何か不自然なものを感じた。一度も会ったことのない息子の死とその真実を求めて、家庭を捨て身を滅ぼすまで戦う、という姿勢がどうも出来過ぎているような気がする。また高村薫の「神の灯」は主人公の行為に不条理を感じ、なぜこんな事をするのだろう、と読者に思わせるところがミソの様で首肯できるように感じる。こちらは原発の地盤構造計算が問題という事であまりにも現実的、実際にはそのような話は聞いていないから、原発の不安をあおるために何か無理に作り出しているようにも思えた。
010511