犬墓島            辻 真先


講談社文庫

文英社が新しい雑誌「MANWOMAN」を創刊するために、ミステリー作家牧薩次がフォトノベルを書くことになった。犬が主体で、戦時中犬を実験用に使いその怨念が篭っているという瀬戸内海の犬墓島で顔合わせを行うことになった。犬墓島は人口8人、南側に民宿2件、北側に文英社の別荘で管理を委託された溝沼親子が住んでいる。
牧薩次、迷犬ルパン、飼い主朝日正義刑事、その恋人川澄ラン、女優の近江由布子、その亭主の中込攻、「MAWOMANN」編集長堂本、文英社の他の雑誌で活躍する佐貫、新谷、可能克郎記者、可能の妹キリ子、、文英社出世株の若手井崎総三が峰岸船長の操縦する虎岩丸に揺られながら到着。
別荘に到着すると台風が近づいているのか天気は荒れ模様。天気予報を聞こうとラジオをつけるといつにまにか電池が抜き取られている。遅れてくることになった瓜生真に電話を入れると「そちらで、恐ろしいことが起るような気がします。」と言った後、切れてしまい、後は通じない。そして金色屏風には「浜辺の歌」と「サンタマリアの祈り」
今、青い空に、鐘は鳴り渡る/鳩は乱れ飛ぶ/君よめざめておくれ…
そしてルパンの異様な咆えぶり。峰岸夫婦の三つになる女の子サッチャンが小犬のスピッツもろとも二ヶ月前波に攫われて死んだと言う。スピッツの首についていた鈴の音がどこからか聞こえる。チリーン、チリーン。キリコとランがお風呂に行くとおかしな人物がのぞいている様子。
翌日井崎が行方不明。皆で探すと崖の下に倒れていたのだが、行ってみると死体がない!。そしてその後にカミソリガイが一つ。溝沼老人のつぶやいた「間違いじゃが仕方がない。…」の語が妙に気になった。
その老人の話で島には別荘から浜辺に出る抜け穴があることが分かった。しかしその詳細が記されていると言う「犬墓村縁起」はこつぜんと姿を消した。井崎が消えた謎を追って翌日全員で探検、抜け穴を見つけたが早くもルパンが感電するなど前途多難。それでも進むと行く手に釣り鐘の群れ。どうやら戦時中軍が金属徴収の一環として集めたが、終戦になり、そのまま放置されたものらしい。井崎は崖下に小さい傷を受けて倒れていた。
どうやら文英社が多数を巻き込んでおこしたドッキリカメラ的芝居と分かったが、またしても悲鳴。悲鳴のの後を追って釣り鐘の場に戻ると、今度は別の死体!なんとそれは文英社の伊達社長ではないか。その下からは鳩の死体…・。

この作品は横溝正史の「獄門島」のもじり小説であるが、作者はサービス精神を発揮して他の横溝作品のエキスまで取り入れている。
犬墓島?どこかで聞いたことがある。八墓村に似ている。出だしの文章がどこかで読んだ気がする。調べてみると「獄門島」の出だしと非常に似ている。章タイトルは獄門島の「第一章金田一耕助島へ行く」に対し「第一章ルパン島へ行く」、「第七章てにをはの問題」に対し「第三章てにおはの問題」、「第九章発句屏風」に対し「第二章カラオケ屏風」、「第十八章駒が勇めば花が散る」に対し「第四章犬が勇めば火花散る」となっている。他に三本指の手形は「本陣殺人事件」、コントラバスから死体は「蝶々殺人事件」のパロデイと言った具合。
それだけではない。殺人は「獄門島」の「鶯の身をさかさまに初音かな」「むざんやな、兜のしたの、きりぎりす」「一つ家に遊女も寝たり萩の花」の見立て殺人に対し、「はまべの歌」と「サンタマリアの祈りの」の見立て殺人である。さらに和尚がつぶやく「気違い(実は季違い)じゃが仕方がない。」に対しては「間違い(実はマテガイ)じゃが仕方がない。」が対応している。とどめは釣り鐘トリックだ。「獄門島」では「釣り鐘に死体を入れ、振り袖の端を出しておく、その上に張り子の釣り鐘を載せる、適当な時間に張り子の釣り鐘を海に落とす、誰かが少し前まで見えなかった振り袖を発見する、死亡時刻が誤って認識される」と言うトリックが使われる。「犬墓島」では洞窟の中の張り子の釣り鐘で同類のトリックが使われている。
著者一流のパンチの聞いたギャグが冴えている。登場人物は他の作品に出ていたものが多く親しみやすい。まずは健全なユーモア推理小説である。
010411