女王蜂        横溝 正史


角川文庫

「伊豆の下田から南方へ海上七里、そこに地図にものっていない小島があり、その名を月琴島という。」
昭和二十六年五月、類まれな絶世の美女、大道寺智子は十八歳になり、亡き母の遺言に従い月琴島をでて東京にいる父欣造のもとに引き取られることになった。
昭和七年五月、島に二人の学生日下部達哉(偽名)、速水欣造が滞在し、智子の母琴絵は、日下部と契りを結び妊娠した。その後島を再訪した日下部は、事故死したと伝えられた。琴絵は、翌年智子を生んだ後、速見と結婚した。智子は養子として育てられた。しかし琴絵は、智子が五歳の時に他界した。今、島の広大な屋敷には祖母の槙、智子、昔からの家庭教師神尾秀子が住む。
欣造のもとに「あの娘をよびよせることをやめよ。多くの男の血が流されるであろう。」との脅迫状が寄せられた。そこで加納弁護士に頼まれて金田一は、彼女を迎えに行くことになった。島を出た一行は、修善寺松籟荘に落ち着く。そこには欣造のさしむけた花婿候補遊佐三郎、駒井泰次郎、三宅嘉文のほかは自称花婿候補の多門連太郎もまた待ち受けていた。さらに大道寺家からの使い九十九龍馬、推理好きでいたずら坊主の文彦、そして身元不明の老人。役者はそろった。
智子が怪しい手紙で、屋上の時計台に呼び出され、中を見ると遊佐三郎の死体。気を失いかけたところを助けたのは多門だったが、彼は「ぼくじゃない、ぼくが来た時には遊佐は、すでに死んでいた。」との言葉を残し消える。その恐怖も覚めやらぬ翌日、木のうつろの中で、庭番姫野東作の絞殺死体が発見された。
やがてあの身元不明の老人が衣笠宮智仁殿下、その第二王子智栓が日下部と判明。人間関係が明らかになってくる。遊佐等は、欣造が見つけた花婿候補だが、衣笠宮からみれば箸にも棒にもかからぬ、そこで多門を派遣したのだった。しかし次には毒入りチョコレートを食って三宅までが他界してしまう。
一方智子は、九十九の経営する青梅の道場を訪れ、出生の秘密を知った。日下部は島にあった封印された部屋で撲殺された、九十九が閂と掛け金をあけて入ったとき、琴絵が、血のついた月琴を持っていたから犯人だ、と言うのだ。智子は酒を飲まされ、秘密の部屋で襲われるが、何者かに九十九が殺され、多門に助けられる。二つの密室殺人事件の解が面白い。九十九道場の場合は抜け穴、琴絵の場合は琴絵が部屋を離れたすきに犯人が入って刺殺し、逃走、戻ってきた琴絵は部屋に入るなり癖で鍵をかけ、現場を見て驚いた、と言うのである。
事件は最後になって、昭和七年に島を訪れた嵐三朝(姫野東作)一座の秘密が解かれ終局に向かう。秀子によれば「私は、一座に紛れて速見欣造に思いをよせた。しかし速見の心は、琴絵にあった。そこで日下部と琴絵を結び付け、速見の心を私に向けさせようとした。しかし速見の琴絵に対する気持が強かったため、琴絵を殺人犯に仕立てようとした。」しかしこれにはもうひとつどんでん返しがあり、それが今回の事件に繋がっているのだった。

独特のムードがあり、しかもどんでん返しの繰り返し、実に面白い推理小説である。トリックもここでは密室だけ取り上げたが、編み物による記号、写真、新聞の切り取り利用など数多くちりばめられている。もちろん沖の島や島で育った女王蜂みたいな娘など現実離れした想定もあるが、面白いのだからそれはそれで良い気がする。

・ 沖の島=同じ名前の島が高知県宿毛市にある。釣りと観光の名所。

・月琴=http://www.arbus.co.jp/gekkin.htm
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