双葉社 日本推理作家協会受賞作全集
四綱の上で狐葛葉を演じていた蘭之助が、不意にのけぞって奈落に落ちた。翌日浅尾花六の絞殺死体、雑用係のセイさんの縊死死体が発見された。そして芸で蘭之助と競っていた菊次が消えた。私は九歳だった。
十五年後、芝居小屋桔梗座は最後の日を迎えた。特別出演していた立花知弘が、あの四綱渡りを演じたが、またしても落下して死んだ。母親の喜久は、知弘は蘭之助だと嘆いた。ところが血液からパラニトロ・フェノールが検出され、白粉に混ぜられていたことが分かった。そして振り付け師の大月城吉の絞殺死体が発見された。事件は大月と知弘が互いに相手を殺したとして一件落着したと思われた。
私は、十五年前の事件と今回の事件は関わりがあると考え、当時の関係者、知弘が良く出演していた浅草の小屋などを尋ねて、蘭之助、菊次等の過去を洗う。よう壁の中から十五年前の事件は大月城吉が犯人、私はその仇をとるという蘭之助の遺書が見つかった。
取り壊された桔梗座の前で、私は喜代を「十五年前に狐葛葉を演じていたのは菊次、彼が落下して死に、その死体を蘭之助と一緒に二重よう壁の中に隠した。事件を目撃した浅尾花六を殺しセイさんを犯人にしたてた。」と糾弾。会話のうちに蘭之助がすでに死に、知弘は菊次の弟小菊だったことが分かる。しかし「十五年前の事件の原因が、実は私にあったこと、今回の事件に私の母も関わっていた。」としらされ愕然とする。
まずよく調べているなあ、と思う。読んでいると次第に芝居の世界に引き吊り込まれて行くような感じのする作品。筋立てがしっかりし、文章のは美文口調に近い。入れ替わりは推理小説でよく見られるテクニックだが、いかに本当らしく語って利かせるところがミソ。芝居の演者が他人というのは面白い。
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