仮面舞踏会           横溝 正史


角川文庫

飛鳥忠ひろは元侯爵の御曹司で、戦後神門財閥を作り上げた財界の大物である。昭和35年8月14日、嵐の朝、彼は軽井沢の別荘にいた。近くの高原ホテルには愛人で過去に4回の結婚歴を持つ鳳千代子が来ていた。
鳳千代子の最初の結婚相手は笛小路泰久で戦前の映画スターの2枚目、美沙をもうけたが、戦後になって離婚した。二番目の結婚相手が新劇俳優の阿久津謙三、藤村夏江をすてさせて一緒になったが、これも長く持たなかった。三番目は洋画家の槇恭吾、最後が作曲家の津村真二である。これら長く続かず離婚に至っている。
一昨年、阿久津謙三が酔っぱらって通りを渡ろうとし、自動車にはねられ亡くなってしまった。昨年8月16日未明、笛小路が軽井沢のプールに死体となって浮かんでいるのが発見された。心臓麻痺で処理されたが疑問が残る。
ところが目をかけている村上などとくつろいでいると、そこに槇恭吾が殺されたとの報。金田一が関係者とかけつけると、槇は鍵のかかったアトリエの中で、倒れていた。死因は青酸カリ中毒。死体の尻には蛾の鱗粉、下に緑と朱のまっすぐだったり、折れたりしたマッチ棒を使った奇妙な模様が書き付けて合った。
捜査の結果、槇は前夜津村真二の音楽会の切符を美沙にあたえるべく戻っていたこと、その津村が失踪した事がわかった。アトリエ脇に止まっていた車のトランクと津村のアパートからおびただしい蛾。すると槇は津村宅で殺されて、トランクに入れられ、アトリエまで運ばれたのだろうか。しかも事件後妖しげな黒マントの男が目撃されており、津村は生きているとの噂も。そして同じように事件現場近くにいつも藤村夏江が出現しており、犯人探しは混迷を極める。
奇妙なことが起った。ゴルフ大会のおり、グリーン上に落ちた赤い毛糸を、美沙が識別できないのだ。彼女は赤緑色盲だ!そしてそこに飛鳥忠ひろが撃たれた、との報。輸血が必要になったが、その時、金田一は笛小路泰久の血液型はO、鳳千代子はA、美沙はBと知った。色盲の遺伝、血液型から美沙が泰久や千代子の子ではありえない!
樋口操は、消えた津村慎二が犯人に違いない、殺害現場にいつも現れる藤村が何か知っている、と信じ、藤村を驚かして現場を冒険しているうちに津村の死体に遭遇した。金田一に問いつめられて、藤村が目撃談を語り始める。
そして千代子と笛小路泰久の継母篤子の茶室での対決を前に金田一の謎解きが始まる。
篤子に、没落貴族の娘に仕立て上げられた犯人は、自分のルーツ探しを始める。自分の娘ではない、と知って、まず犯した父を殺す。一年後、津村の別荘で、槇からマッチ棒を使って色盲の遺伝について講義を受けた。しかし自分の重大な秘密を知った槇を、毒入りウイスキーで殺してしまった。犯人が消えた後、津村が戻って来て、死体を発見し、槇のアトリエに運搬。しかし戻って一服と、残ったウイスキーを飲んだところ、死亡。それをまた犯人と親しい青年が見つけて死体を隠した云々。

「人生は仮面舞踏会みたいなもんだ。男も女もみんな仮面をかぶって生きているって、あちらのえらい人が言ったんだって。あたし、いまつくづくその言葉に感心していんのよ。」(557p)これがこの作品の結論かも知れない。
1962年「宝石」で連載を始めたが、翌年中断、75年ころ完成した晩年の作品である。描写が少々くどく、文芸小説風。仕掛けられた謎が多すぎ、解き方に不十分なところもあるなど、若い頃の作品のような切れ味は薄れてきている。しかし十数年かけてまとめあげ、それなりのクライマックス、解決編を用意しているところはさすが。

・男子の色盲は案外多く全体の約五パーセントを占めるのだそうです。ところが女子の色盲はうんと少なく、全体の○、五パーセントだそうです。ではどういう場合に色盲の女子が生まれるかというと、自分は色盲でないが色盲の遺伝子を持った女子と色盲の男子が結婚して、その間に産まれた女の子だけが色盲になるんだそうです。(522p)
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