化人幻戯・堀越捜査一課長殿      江戸川 乱歩


創元推理文庫日本探偵小説全集2

化人幻戯
 庄司武彦が秘書になった大河原家には大河原義明元侯爵と後添いの夫人由美子がいる。そして大河原の会社の姫田と村越という青年がよく出入りしており、二人は対抗しているようだった。由美子の趣味は双眼鏡、海岸の別荘で過ごしているとき、遠くの魚見岬から男が落ちる様子が見えた。そしてそこから姫田の死体があがった。
 やがて武彦は由美子にひかれ、ただならぬ関係に陥る。そしてK、M、Sなどの文字と時刻らしい数字からなる秘密のノートの発見。調査に明智小五郎が乗り出してくる。
 東京に戻ってのち、自室で村越がピストルで撃たれて死んだ。その時刻、皆、大河原家におり、犯行は無理のように見えた。ついで村越の知り合いで、村越にピストル購入を依頼されていた貧乏画家の死。同時に妙な穴のあいたマネキンが発見される。
 ふとした弾みで武彦は由美子の秘密の日記を発見。そこには由美子の推理が書いてあった。「姫田は事前に殺されていた。主人は窓からの合図で、隠れていた村越に、マネキンを落とさせ、アリバイを作った。村越殺しは主人が密かに部屋を抜け出し、村越の部屋で、音楽放送を録音した後、突然、村越を殺した。窓から脱出、その際銅線を使って密室を作り上げた後、自室に戻った。あらかじめ家中の時計を狂わせておき、音楽放送の時間と見せかけて、録音テープを回し、家人をだました。画家はおびき出して、橋から突き落としたに違いない」
 武彦は日記を明智に持参する。ところが日記を読んだ明智は、この推理が由美子と大河原侯爵をそっくり入れ替えても成立する事を見破った。今度は由美子に防空壕に導かれた武彦がピンチ。由美子は子供の頃からの殺人狂だった。
 マネキンを人と間違えるか、などの議論はあるものの、非常によくかけた推理小説と思う。自分自身の殺人を遠方から目撃するというシーンは、たとえば「皇帝のかぎ煙草入れ」を思い出させる。録音テープを使った村越殺しのアリバイ作りも、家中の時計を狂わせるなど大がかりで大変面白い。
・犯罪関係の書籍(497p)

堀越捜査一課長殿
 警視庁堀越捜査一課長の元に見知らぬ男からの手紙、それには「かねてから福寿相互銀行専務取締役の北園壮助氏から、死んだらあなたにこの手紙を中味を見ないで送るよう頼まれたので送る。」と長い別の手紙が同封してあった。
 五年前渋谷署長をされていた頃、おこった東和銀行支店の盗難事件を覚えておいででしょう。現金入りの麻袋をもって出てきた二人の行員に体当たりを食らわせ、麻袋を奪った事件です。犯人は私の部屋の隣の大江幸吉の部屋に飛び込み、私も急いで追いかけたのですが見失いました。私も大分疑われ、テレビの中まで調べられましたが、結局大江は行き方知れずで分からずじまいでした。
 その後私は大江と良く行った新宿のバーの弓子と結婚しました。さらに大阪で福寿相互銀行を起こしました。しかし弓子は死に際に言ったのです。「私、あのこと知っていてよ。テレビの中にお金を隠したことも、樋を利用したことも。」
 そうです。あの事件の犯人は私だったのです。私はこの事件を起こすために変装し、大江と二役を演じていたのです。大江として逃げ、ベランダづたいに自分の部屋に戻り、金はブラウン管をくりぬいたテレビの中に隠し、変装を解いて北園として大江を追いかけたのです。その後、捜査をおそれて細工した樋の中に金を隠し、それを元手に銀行を起こしたのです。
 追いかけられたものが変装を解いて何気ないふりをして追いかける側にまわるやり方はガストン・ルルーの「黄色い部屋の謎」を思わせた。金の隠し方はデイクスン・カーの「ホット・マネー」(不可能犯罪捜査課)を思い出した。

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