風の扉     夏樹 静子

角川文庫

染織工芸の大家百合沢錬平に破門された島尾丈吉は、世に出られず、作品をかかえてふたたび百合沢を訪れたが、冷たく拒絶される。かっとなった島尾は雑木林の中で襲い、殺害する。ところがまる一週間たっても百合沢の死は報道されず、刑事が動いている様子もない。

交通事故で担ぎこまれた身元不明の男は、恋人杉乃井滝子の証言から建築設計事務所勤務瀬川聡と判明した。しかし瀬川の遺体は滝子が顔を確認しただけで荼毘に付された。そのとき、彼女は指輪を発見したが、のちにそれは百合沢夫人苑子のものだった。そして滝子がかいまみた百合沢の手には瀬川と同じ傷があった!

ホテルを経営する実業家の多賀谷徳七は肝臓癌の末期で入院中である。余生は時間の問題だが、目下建築中の新館の落成を見たいし、自分の後を息子に継がせたい。しかしこのままでは副社長に実験を握られてしまう。ところがこの社長が延命する奇跡が起きる。

高原典代が父小森貞利の死を兄から知らされたのは、死後一日たってからだった。あわてて駆けつけると、遺体をろくに見る間もなく火葬場に運ばれた。しかしそのとき垣間見た父の足はずいぶん小さくなっていたよいうに見えた。

百合沢の死に疑問をもった島尾が尋ねると、なんと彼は生きて作業場に座っているではないか。あわてて逃げ出すが、数日して苑子夫人から「百合沢がなくなった。」との知らせを受けかけつけると、なんと百合沢に追いかけられ、事故死してしまう・・・。

4つの事件が並行的に書かれていてちょっとわかりにくい。しかし滝子や典代の調査により、背後に頭蓋の全置換実験が隠されていることが次第に明らかになってくる。一個の頭蓋をべつの一個のボデイにのせ、再生する実験である。

この小説は近未来小説である。私は小説そのものよりも本当にこのようなことが可能なのか、興味を持つがよくわからなかった。

しかし小説としては臓器を提供するドナー、臓器を受容するレシピエント、両者の仲介をおこなう移植医師、それをとりまく複雑な人間関係、技術現場、法的、道議的問題にスポットを与えて先端医療の現実に真正面から取り組んでいるところはすばらしい。

・ 要するに、脳死した人は、絶対に二度と生き返ることはない、つまり死んだ人と同じなのだということだけは、ようやく理解されてきた。(171p)

・ 医者による死の判定について(230p)

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