家族狩り   天童荒太

新潮文庫

山本周五郎賞を受賞した同名作品の構想をもとに、生み出された新作長編である。家族問題を正面から取り上げた作品で、登場人物がそれぞれに両親だの息子・娘だのに大きな問題を抱えている。2200枚の大作とのことだが、久しぶりに考えさせられ、ほかの人にも読んでほしい本と感じた。

5分冊になっているがステイーブン・キングの「グリーン・マイル」に習い月一冊の刊行形式をとったとのこと。それぞれのタイトルは「幻世の祈り」「遭難者の夢」「「贈られた手」「巡礼者たち」「まだ遠い光」第1巻のオビに「国内に、また世界に悲しみがあふれる今届けるべき物語は何か、考え抜いた結実です。」とある。
刑事の馬見原光毅は、本来成績優秀で仕事に没頭し、将来は本庁の捜査一課長になれるとまで噂された。しかし彼は暴力団員との争いで、上司をかばって相手を撃ち殺してしまい、所轄にとばされた。忙しくて息子の勲男がスクーター事故で死亡したがその葬式にもでてやれなかった。息子の死のショックで母が倒れ、父の態度を怒る娘の真弓がぐれ、万引き事故を起こして補導された。妻の佐和子が精神をおかしくし、入院してしまった。本人は所轄でも優秀な成績だが、実は暴力団と繋がる秘密の情報源を確保していたし、彼らから時には金も受け取っていた。そんな状況下で彼は、暴力団員の亭主油井の暴力から冬島綾女を救い出し、離婚させたが、縁となって関係し、息子の研司も彼を慕うようになった。そんな問題男の彼を、元警察官を父に持つ椎村が慕っている。
児童相談センターで心理職員として働く氷崎游子は駒田玲子の問題で心を痛めていた。彼女の父は普段は普通だが、酒を飲むと娘に暴力を奮う、みかねて保護したのだが、父親は何とか取り返そうとしつこい。しかも玲子はあれだけされても父を求める様子。
高校の美術教師の巣藤浚介は、恋人清岡美歩と家庭を気づくこことにためらいをみせていた。女生徒芳沢亜衣の起こした傷害事件を機に氷崎游子と運命的に出会う。しかし「亜衣さんのこと、きちんと面倒見てあげてください。」といわれてもとまどうばかり。
馬見原の妻佐和子が病院から出ることになったが、馬見原は結婚したばかりの真弓と対立したままだ。所轄では犬や猫を殺して、死体を民家に置く事件が頻発するなど多様な事件が頻発していた。そんな折、麻生家で一家3人の死体が見つかった。夫婦が裸にされ、後ろで結び付けられ、ノコギリで引き殺されたらしい。普段両親に暴力を振るっていた息子は、別室でカッターナイフで喉を切って死んでいた。息子が両親を殺し、自殺を図ったようにも見えるが・・・・。
こうして物語は、第二巻以降に傷を持った主人公たちがようように絡み合いながら展開してゆく。馬見原は捜査に専念する一方、二つの家庭、死んだ長男を背景に娘との対立などで悩む。氷崎は相変わらず駒田父娘の問題などで悩む。巣藤は児童相談などに当たっているうちに若者に襲われおかしくなったり、芳沢の前後を取り乱したような発言で休職に追い込まれるなどする。一方で心のよりどころを失った芳沢は、摂食障害からなかなかぬけだせない。その間に実森家で、麻生家と同じ様に、両親と登校拒否に陥っていた一人息子が惨殺死体となって発見された・・・・・。
全体としてみるとこの二つの一家殺害事件の馬見原による犯人探しを描きながら、そこに呻吟する個々人の悩み、家族の悩み、それらのつながりを描き、現代の日本の家庭の問題点を提示しているように思われる。
第5巻の犯人が暴力親父駒田を殺したことについて「(娘の玲子は)彼のような父親が生きていては幸せになれない。つらい日々はこれでもう終わりにして新しく始めればいい。」
これに氷崎が「終わりになんてなりません。大勢にとって、いやな人でも、誰かにはかけがいのない人の場合があるんです。失えば、悲しみに胸がつぶれます。不当な方法でなくしたら、恨みだってつのります。残された者は、自分のせいだと思うかもしれない。いやな人、ダメだと思う人を、力づくで排除してしまうのは・・・・人と人が理解し会うとか、思いやりによって人が結ばれるといった、社会を根底で形作っているもの、家族を家族たらしめている絆のようなものを、その時点で否定することになるんじゃないですか。」と反論するところが印象的だ。
作者は同じ言葉を今の日本、国際社会全体に投げかけているようにも読みとれた。最後にもう一度言う。「一読をお勧めする。」

040617