キッド・ピストルズの妄想    山口 雅也


東京創元社ハードカバー

 現在の英国に似ているが、幻想の世界でのみ存在する分岐並行した異なった英国、すなわちパラレル英国で、探偵士の称号を持つパンクキッド・ピストルズとピンク・ベラドンナが活躍するおかしな冒険談である。独立した三つの物語よりなり、事件は巻頭のマザーグースの歌に見立てて発展する。

反重力の塔
ハンプテイ・ダンプテイは塀の上に座っていた。
ハンプテイ・ダンプテイは勢いよく落っこちた。
王様の馬が総掛かりでも
王様のご家来衆が総がかりでも戻すことはできなんだ。
 ダンプリー博士は、日本の財団から援助を受けて、長年反重力の実験を進めていたが、最近援助が打ち切られそうでさえない。実験の成果を見せると言うので、キッド・ピストルズ等が出向くと、フルフェイスヘルメットをつけ白い実験衣をまとった博士が待っていた。反重力の塔は、4階建てくらいの高さで円筒型、中に螺旋階段がついているだけのもの。屋上で博士が消えた後、銃声がしたので駆けつけると、博士は4階の密室で発作で死んでいた。1階にもどると博士と意見を対立させていた、クレイポール博士の射殺死体。果たしてダンプリーは反重力作用を応用し、4階から飛び上がって1階にきてクレイボールを射殺し、また4階に飛び降りた後、心臓麻痺で死んだのだろうか??しかし近くを通りかかった少年が映したカメラは、4階に二人の博士がいた事を認めた!!作者の一寸あやしげな相対性理論談義が非常に面白い。
・猛スピードで走ったため、赤信号の光が曲がって青信号に見えた!
・相対速度と「塔の処刑」・・・高い塔から飛び降りる方法で死ぬなら、父親だけは助けてやろう。巨大な大砲で撃ち出されて死ぬなら、母親だけは助けてやろう。・・・男は塔からジャンプして大砲の中へ飛び込んだ。(125P)

ノアの最後の航海

雨、雨、いっちまえ
いつか、また、おいで

雨、雨、いっちまえ
来るなら、マーサの
嫁入りの日にしろ
 死の床のある億万長者ノアは、あのノアの箱船神話を信じ、再現しようとしていた。一方クレイボール博士は「世界を覆い尽くす雨など降るわけがない。」と主張する。外は降り続く雨、乗せる動物の選択に悩む頃、船の一番上の部屋で銃殺された博士と心臓発作で死んだノアが発見された。ノアは、莫大な財産をゲイの息子を除く8人の甥や姪に残す遺言状を書いていた。果たしてノアが博士を銃殺した後、死んだのか、それとも遺産がらみの殺人か・・・。動物選定など箱船出航の際のどたばたが面白い。
・「大気中の水分がすべて地上に降り注いでも1センチメートルしか水位は上がらない。」など地球上の水についての議論(170P)
・オランウータン密室殺人説(211P)

永劫の庭
メアリー、メアリー、つむじ曲がりさん
お宅のお庭はどうなってるの?
銀の鈴とトリ貝の殻
寝取られ亭主が一列に
 ラザフォード伯爵邸で宝探しが行われると言うので、キッド・ピストルズ等が出かけて行くと、伯爵夫人メアリーが「主人がいない。」。ともかくも用意した宝探しが始まり、金がかっかているとピンク・ベラドンナが張り切る。見つかったヒントの紙を次々においかけて最後に庭園洞窟に行き着き、安置されてあった柩をあけると、伯爵の首無し死体とむかし伯爵が目をかけた女の死体。伯爵は、庭園をNSAに売るなど財産はほとんどなかったが、多額の生命保険に入っていることがわかり、メアリーが仕組んだものではないか、などの説が流れるが、彼女は頑強に否定。それにしてもなぜ首を切る必要があったのだろうか。これもイギリス庭園に関する蘊蓄が面白い。
・ルイ14世の大蔵大臣ニコラス・フーケは、壮大華麗なヴォール・ヴィコントの庭園を造営したのはいいがそれが太陽王の思わぬ嫉妬をかってしまった。(257P)
・首を切った理由・・・・・犯人と結びつく痕跡を残す凶器・・・・銃(325P)
・内省的な生活を続けてきたものにとって、人生の最高の喜びは、感情を共有できる同胞を見いだすことです。(339P)

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