徳間文庫
金閣寺の中で、中年の女が顔中金色に染められて死んでいた。女を貴島波子という。この事件に志垣警部等の要請を受け推理作家朝比奈耕作が挑戦する。
この作品はなぞ解きも面白いが、貴島一家の歴史記述が素晴らしい。戦後日本の風俗史を眺めながら、貴島家を通して日本の典型的な嫁姑、夫婦、子の扱われ方などの家庭問題を見事に描き出している。
昭和三十年代後半、鶴子が生れるまで貴島由多佳は、長い間一人っ子として育てられた。父親の杵雄は機械メーカーに勤めるエリートだったが、家庭は顧みない人だった。杵雄の母由乃は、姑にいびられてすごしてきた。だから口では杵雄の嫁にはそのような苦労はさせないとしながら、自分のために尽くす嫁を探した。そのため杵雄の恋にはすべて邪魔が入った。結局婚期の遅れた波子をあてがわれた。杵雄と波子の間には愛がなかった。
由乃が亡くなって事態が変わった。波子はたががはずれたように、傍若無人になり太った。その反動で杵雄は会社の秘書に手をつけた。すると波子は精神に変調を来たし、精神科に入院することになった。このような状況が、幼い由多佳の妹鶴子にどのような影響を与えたか。やがて秘書が亡くなり、杵雄が二人の間に出来た結子を引き取ると、鶴子が家を出て行くと言い出し、杵雄も知り合いの阿部家に養女に出すことを承知してしまった。
しばらくして今度は杵雄が突然他界すると、入院していた波子が家に戻ってきた。由多佳は幼いころ人に言われたこともあり、結子を愛し、守って行こうと考えていた。ところが波子は、結子は追い出すべきだと主張し、由多佳と激しく対立した。その後由多佳は波子の薦める尚子と結婚した。しかしそんな結婚が幸せなはずがない。
このような状況の中で、京都で放送関係の仕事をしている由多佳と朝比奈が、打ち合わせをし、一杯飲んでいる間に、貴島波子が殺されたのである。ちょうどそのころ、もう一人の容疑者結子も外人に三尊像の案内をしていた。犯人は二人のうちのどちらか、閉園後の園内にどうやって犯人は入ったのか、なぜ金色の塗料を吹きかけたのか、殺害方法はどうだったのか、朝比奈の捜査と推理が続く。
地元のせいか京都や金閣寺に関する解説も楽しい。特に金色の金閣寺の下に漆黒の金閣寺が隠れていると言う話は作者の着眼点に感心すると共に興味深かった。
余分な一言。P100に「スプレー缶に青酸カリを混入させることが難しい、だからイラストレーターが使うエアブラシのようなものを使った可能性が高い。」と疑問を呈しながら、p300あたりではスプレー、スプレーと簡単に片づけているのはどうなっているんだろう。
それにしても一年で十四作だって?随分この作家は精力的だなあ。脱帽!!
最後に友人さゆりさんの意見:結子は奈良薬師寺を本当に尋ねていたかどうかが、鍵になると思うわ。プロローグで外人に三尊像らしきものを案内しているけれど、奈良薬師寺とは書いていないわ。206ページに朝比奈は、結子が白豪や奈良薬師寺の建築配置を知らないことを発見して、行っていないのではないかと考えているでしょう。エピローグで「「きっと結子はこれを見ていたんだ。」階段を上がった奥にある、両脇に菩薩を従えた如来像を見つめながら、貴島(由多佳)はつぶやいた。」とあるけれど、奈良薬師寺とは書いていないわ。すると結子は別の三尊像を見ていたのであって、アリバイは成立するけれど罪を引き受けたのかしら。もし、そうとするとどこの三尊像かしら。私、それ考えたら夜も寝られなくなっちゃった。
・嘱託殺人(83p)
・「苦労は買ってでもせよ」と言う教訓は、あれは百パーセント間違っている。「降りかかってきた苦労は、プラスに転じよ」と言うなら話は分かりますけどね。いらぬ苦労は、人間の性格をねじまげてしまうだけです。(93p)
・親と子は、血が繋がっているから愛し合うんじゃない。精神的な絆を大切にしてこそ、始めて家族として愛し合えるんだ、と僕は思います。その点では、親子も夫婦も一緒なんですよ。よく親子減価したときに、親の言うせりふでこういうのがあるでしょう。「誰に産んでもらったと思ってるの」とか「誰のおかげで大きくなったと思ってるんだ」ってね。くだらないですよ。そういうのは。(294p)
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